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39、印の意味

風呂から上がったあとは、フィリオが入念に拭いてくれて、だいぶ水気が取れた。くらくらしながらフィリオにもたれかかると、柔らかくキスが落とされる。 そんな状態のまま部屋にたどり着いたんだけど、とりあえず誰かに見られなかったことにホッとした。今の俺はたぶん、恥ずかしいくらいフィリオに甘えきってるから…その、なるべく見られたくないというか。 「俺はお前が俺のものだと、見せつけてやりたかったけどな?」 「…イルたちに見せつけてどうするんだよ」 「あいつらはお前のことが好きみたいだからな。牽制だ」 「牽制って…」 「お前の全ては俺のものだろう?」 ちゅ、と薬指の印に口付けられる。 …。 そうだ、印のことが結局聞けずにいる。これまでは怖くて聞けなかったけど、今なら聞ける。たぶんフィリオは答えてくれる。 「あのさ、フィリオ」 「なんだ?」 「この印って、何で俺につけたんだ?…その、普通、これって奴隷につけるよな?」 「普通、とまで行くかは分からないが。そうか、お前は店にいたからその感覚が抜けないんだな?」 「え…他に意味ってあるのか?」 きょとんとしながら聞き返すと、フィリオは複雑な表情をしながら話し始めた。 「そもそもこの印は、何も相手を奴隷にするために作られたものじゃない」 「え、そうなのか」 「この印を刻むと、相手のことを自分の魔力でつなぐことができる。だから、相手がどこにいるのかも分かるし、印を受けた者は呪詛や呪いの類いは跳ね返せるようになる」 優しく印を撫でるフィリオの目は、優しいものだった。それに今のフィリオの話を聞く限り、印を刻まれても、確かに奴隷という感じはしない気がする。 「対人間の契約は、そもそも相手を守ろうとした魔法使いが編み出した術式らしいしな」 「…それって…」 「…なんて、綺麗事を並べてみたが」 「わ」 手を引かれ、フィリオの腕の中へと閉じ込められる。そして強く抱きしめられ、耳元に吐息を感じるほど密着させられる。 「…要するに、相手を自分だけが守りたいと願った奴が生み出した、独占欲丸出しの魔法というわけだ」 「そ、そうなんだ」 「つまり俺は、お前のことを手に入れたくて印を刻んだんだ。誰にも盗られたくなかった。…ここにいるギルドの元締めは、自分だけの手で恋人を守ってやりたいと願った、馬鹿な男だ」 「…っフィリオ」 「重くて引いたか?」 「そんなこと、ない…俺、フィリオにだったら独占されたい…」 「…」 頬を撫でられ、そっと口付けられる。 その甘さに酔っていたら、いつの間にか押し倒され、深いキスを味わった。 「…俺のことを煽った責任は取ってもらうぞ」 「…いいよ。だって、さっきの続き…するんだろ…?」 「もちろん」 不敵に微笑むフィリオは、やっぱりカッコいいなと思う。ずっと俺だけに向けられることはないと諦めていたけど、そんなことはなかった。むしろフィリオの愛情のこもった瞳は、いつも俺に向けられていたんだ。 そのことに嬉しさを感じながら、俺はその日、与えられる熱に存分に酔いしれた。

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