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7、「嫁を買ってきた」
「ち、ちなみに…聞いてもいい…?」
「はい、何なりと」
「フィリオは…本当に俺を妻にするって言ったの?」
「ええ。『嫁を買ってきたぞ!』とそれはそれは意気揚々と帰ってこられました」
「嫁を買ってきた…」
嫁を買う?
俺の感覚とはかけはなれたものだ。
結婚っていうのはもっとこう、神聖で、お互いの合意のもとに結ばれるものなんじゃないのか。
「何かの間違い、とか…」
「ニィノ様」
「え、な、なに?」
エイミが俺の手をぎゅ、と握り目線を合わせてきた。ちょっと近い。とても近い。目力やばい。
「大丈夫です。確かに旦那様は周りから、競合した相手や身内の者を、骨の髄まで吸い尽くして破滅させる悪魔だと評されることはあります」
え。何か恐ろしい言葉が聞こえてきたぞ。
「そのせいからか、旦那様は自ら結婚を遠退けてしまっていました。お見合いも何もかも断って…そんな旦那様がニィノ様と結婚したいと思ったのです。きっと、ニィノ様は旦那様の冷たく凍った心を溶かしたのです…!」
「会ったの昨日、だけど…」
しかも殴ってしまいました。
まぁ、最後は満足げにしていたけど。
「日数など関係ないです!」
「姉さん…ニィノ様の顔色が青く…」
絶対フィリオは俺のことを嫁扱いしてない。
されるわけがない。何の取り柄もない俺に、こんな金持ちの人の伴侶が務まるわけがない。
「大変!すぐお部屋にお戻りになってください!お医者様を呼んできます!」
「えっ、え?!」
俺はイルの肩に担ぎ上げられ、寝室に戻されてしまった。見た目は華奢なのに意外と力持ちだ…!
「待って、大丈夫だから!元気だから!俺は外の探検がしたい!」
「体調が良くなりましたら、いくらでもお連れ致します!今は寝ていてくださいまし!」
俺はベッドに強引に寝かされた。そしてどうやらエイミは本当に医者を探しに行ってしまったようだ。
「だ、大丈夫なんだけど」
「ダメですよー!ニィノ様に何かあったら、旦那様はものすごく、ものすごく怒ります!」
「そう、かな…?」
会ったばかりの人を評価するには、まだ情報が少なすぎる。旦那様…フィリオは一体、どんな人間なんだろう…?
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