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第1話
時は戻って数年前。いつも昼休憩に通っている会社の近くのカフェ。その日はたまたま店が混んでいて、俺がカフェに訪れた時には既に席は満席だった。仕方なく帰ろうとした俺は、人の良さそうな男性に声をかけられた。
「あのっ、ここ、空いてますよ。相席で良ければどうぞ」
そう言って自分が座っている席の前を指さして笑う。今更休憩場所を探すのも面倒だった為言葉に甘えることにした。
「……悪ぃ、助かった」
そう言って俺はその席に座る。
「昼休憩ですか?」
「あ?まぁな。お前は?」
「僕もです。同じ会社員っぽいですね。スーツですし」
彼は笑いながら話し始める。やけに馴れ馴れしいな、こいつ。と思いつつ適当に返事をする。そして感じる違和感。なんつーか、こいつの笑顔、嘘っぽいっつーか。
「あ、そうだ。はいこれ、僕の名刺です」
そう言って懐から名刺を取り出して渡してくる。
「あ?」
「何かあった時に必要かなと思いまして」
「なにかってなんだよ」
「そうですね、例えば会社同士の連携、とか」
「あっそ、まぁいいや。貰っとく。つーことは俺も渡さねぇとか。クソ面倒なマナーだなほんと」
ブツブツ呟きながら名刺を受け取ると俺も懐から名刺を取り出して乱暴に差し出す。
「ありがとうございます。」
するとまさかの同じ会社に勤めていることがわかった。
「すごい。こんなことあるんですね。びっくりです」
「そうかよ。広い会社だし、そうそう会わねぇし、こんなこともあんだろ」
「ですね。てかお兄さんよく見たら髪、くせっ毛なんですね。ちょっと可愛い」
「……誰に言ってんだよ。気持ちわりぃな」
「あ、すみません。つい」
そう言って笑う彼を見つめつつ思う。こいつ、案外おもろいやつだな。その後、取り留めのない話を思ったよりもして、まぁ俺はほぼ相槌だが、結局その日はそこで別れた。数日後、エレベーターにて彼と再会した。
「あ!立花さん。偶然ですね」
「……ん?あー、えーと、」
「須藤です。この前カフェで」
「あー、思い出した、あん時の。何」
「そうです。あの、お昼は食べましたか?」
「まだ」
「なら一緒にどうですか?」
「……はぁ、勝手にしろ」
普段俺はひとりで食べるタイプだ。が、誘われたのを無下にするのは気が乗らない。まぁ女からだと断るけど。めんどいし。
「昨日のカフェにしましょうか」
「ん」
その後俺たちは昼休憩をカフェで雑談しつつ、と言っても須藤の一人しゃべりだが、結局食べ終えるまで沢山話していた。その日は「じゃあまた」の一言で別れた。俺はデスクに戻ると悪態をつきつつ仕事を再開する。外では雨が降り出していた。
「……土砂降りじゃねぇか」
帰ろうと会社を出たその時、降っていた雨はさらに勢いをましていた。傘、持ってきててよかった。そう思いつつさそうとすると隣に影が差す。チラリ、と横を見ると須藤だった。
「雨、凄いですねぇ。まさか降るとは」
「天気予報くらい見とけ」
「あはは、僕って運悪いんですよ」
そう言いながら笑う須藤。さすがにこの雨の中傘無しで帰らせる訳には行かず、仕方なく俺は傘を差すと声をかける。
「入れ」
「……え?」
「いいから。この雨の中濡れると風邪ひくしな」
「!ありがとうございます」
隣に入ってくる須藤を見ながら帰り道を歩く。しきりに須藤はひとりで話し続けている。こいつ、話すの好きすぎだろ。
「……で、あの時僕びっくりして、」
「うるせぇ」
そう言いつつ笑みがこぼれた。その時、女性の悲鳴が響き渡る。その方向へ目を向けると、女性がひったくりにあっていた。
「あーあー、知らね」
と無関心に呟く。あぁいうのは無視が1番。巻き込まれでもしたら面倒だ。が、須藤は違った。迷いなく犯人の方へ駆け出すと綺麗な足蹴りを犯人に食らわす。食らった犯人は地面に倒れ、それを須藤は犯人の動きを止めるように捕まえていた。
「うそだろ、」
映画のような一幕に目を丸くする。その後警察がやってきて犯人は逮捕。須藤は鞄を女性に返して「大丈夫ですか?」と笑いかける。騒動が落ち着いたあと須藤は笑ってこちらに駆けてくる。
「すみません、待たせました?」
「いや、別に」
「なら良かったです」
「にしても、なんつーか、へぇ、やるなって感じだわ」
煙草の火をつけながらポツリと俺はつぶやく。須藤はその言葉に一瞬目を見開くとすぐ笑顔に戻す。
「あぁ、まぁ、昔、ちょっとありまして」
と誤魔化すように言う。
「ふーん、そ」
そう答えつつ心の中では疑問が湧く。こいつ、何者だ。それと同時に、もっと知りたいという気持ちが湧く。それが、後の恋のキッカケだった。
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