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第3話

ある日、俺が上司に頼まれて書類を上の部署、つまり須藤のいる部署に書類を届けに行った時。何やら騒がしい様子に首を傾げて近くにいた男性に声をかける。 「おい、なんかあったんか?」 「あ、それが、勇川さんが取引先と揉めたみたいで、須藤さんが対応に当たっているんですが、その、相手側がかなり怒ってらっしゃって」 と言った。なるほどな、チラリ、と須藤が居るであろう部屋に目を向ける。怒鳴るように叫んでいる相手を宥めるように笑っている須藤と謝っている男性の姿が目に映る。うわぁ、かなり切れてやがる。須藤の方へ目を向けるといつもの笑顔を浮かべつつ間を取り持っている。その姿に違和感を感じる。その違和感を探るように須藤を見つめているとその正体がわかった。あいつ、体調悪いな?そう気づいた俺は迷わず部屋の扉を開けると切れている相手に頭を下げつつ言葉を放つ。 「すんません。須藤借ります」 「ちょっと君誰!借りるってなんだね」 「いやぁ急ぎの用がありまして、すんません」 そういうと俺は須藤の腕を無理やり引っ張って部屋から出る。須藤の困惑した顔を無視した人気のない椅子のある場所に連れていくと座らせる。 「あの、立花さん??」 「お前、体調わるいだろ」 「……へ?」 困惑した顔で聞き返す須藤を横目に自販機で水を買うと乱暴に渡す。 「頭痛か?悪ぃな薬は持ってねぇ。とりあえず水のめ」 「っ、なんで」 「あ?」 「なんで分かんだよ」 「あー、なんで、ねぇ。」 俺はくせっ毛の髪をわしゃわしゃと掻き混ぜると考える。なんで、なんでか、そこである感情に行き着く。俺はさらりと答える。 「あ、そうだ。俺、お前に惚れてんだわ。」 「は?」 「だから、須藤のこと、好きだっつってんだよ」 ぽかん、とはこの事か。という顔をして固まる須藤。次第に俯いて肩をふるわせる。そして堪えきれないと言うように笑った。 「ぶっ、あっははは。今の流れで、それかよっ!おもれぇ」 しばらく笑ったあと落ち着いたのか俺を見て話し出す。 「久しぶりに、こんなに笑ったわ。笑って涙出たのなんて何年ぶりか、あんがとな」 「別に」 「それと、答え、だけどよ。多分、てか確実に、俺も立花のこと好きだわ」 「そうかよ。なら両思いって訳だ。よろしく」 「ふははっ、おう。よろしく」 そう言って先程の笑いとは違った、くしゃりとした笑顔を見せる須藤。 「……やっと、本当の意味で笑ったな、お前」 「え?」 「ずっと違和感だったんだよ。お前の笑顔、嘘っぽくてな。けど、今の笑顔は本物だ」 「っ、はっ、かなわねぇの。聞いて、くれるか?」 「おう」 「俺さ、なんつーか、家庭環境悪くてさ。酒癖悪い親父は俺と母さんに毎日のように暴力振るってるやつでさ。母さん、耐えきれなくなって俺置いて出てった。それ以来親父と二人暮しで。逆らったら殴られる、機嫌悪かったら殴られる、それが嫌で親父が起きてる時に家に帰ることはなくなった、夜の街をうろちょろして、いつしか俺は喧嘩を覚えてった。殴られるくらいなら殴り返すようになってった。気がつけば俺は、喧嘩負け無しになって有名になってた。笑えるよな。」 「……」 俺は無言で続きを促す。 「でも、母さんの言葉が忘れられなかった。『強いなら、その強さを人を守るために使いなさい』って言ってた。俺を置いて逃げたくせに、ずりぃと思った。けどそれ以上に、その言葉が俺の心に焼き付いて離れなかった。だから俺は自分にルールを課せた。喧嘩は売られたら買う、ただし弱いものいじめは絶対しないって。」 「そうか」 「聞いてくれてサンキュ。なんかスッキリしたわ。初めて話した、他人に。話すとこんなに楽になんだな」 そういいながら笑う。その笑顔は歪で、泣きそうに見えた。 「……下手くそな笑い方だな、泣きたいならなけよ。俺しか見てねぇ。泣いたって俺は笑わねぇ。絶対。だから、安心して泣け」 「っ!うるせっ」 そう言い下を向いて腕で目を覆う須藤。俺は無言で頭をわしゃわしゃと撫でる。 「……くそっ、たれ」 数秒後、嗚咽が聞こえてきた。下手くそに泣くその姿に、俺は守りたい気持ちがさらに強くなる。 「今まで泣いたこと無かったんだろ。無理して笑って、本音隠して生きてきたんだろ。だから今は全部吐き出せ。受け止めてやっから。頑張ったな、クソほどえらい」 「っ、ずるっ」 「はっ、ずるくて上等」 しばらく泣き続けた須藤、やがて落ち着いたのか顔を上げる。 「立花ってさ、優しいよな」 「お前専用、な」 「いつからだよ、それ」 「今日から」 「ふはっ、なんだそれ」 「ふっ、笑ってる方がいいわ。お前」 「っ、るせ」 「お前さ、一緒に住む気、ねぇ?」 「……」 「なんか、ほっとけねぇんだわ。お前」 「……甘えても、いいのか」 「俺が言うのもなんだけど、甘えてもいいんじゃねぇの?つか、甘えろ。俺が許す」 「誰目線だよ、ったく。でも、そうだよな。お前と、住みたい。一緒に、笑い合いたい」 「上等。ならそれかなえようぜ」 「おう」 そうして、晴れて恋人同士となり、同じ屋根の下で過ごすこととなった。ちなみにこの話が終わったあと須藤は「さすがにこの顔で仕事出れねぇ」と言って早退してったし、引越し作業はすごい速さであいつは済ませた。俺の家は元々2人用で姉貴が出てってからは部屋がひとつ空いていた為そこに須藤は住むことになった。

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