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『エピソード 1』ー3

 真横から自分を覗き込んでいるのは――T高の制服を着た、背の高い目つきの鋭い男だ。  七星のただでさえ大きめの瞳が、かっと見開かれる。  自分を認識されたと判断した男は七星の口を塞いでいた左手を離した。 「いっく……」 「しー」 (こんなとこで『いっくん』って呼ぶなっつーの)  樹は七星の唇に人差し指を当てた。 * * (交替の時間までまだあるな……)  樹は階段を上りながらスマホを確認した。 (やっぱ……独りだと時間を持て余す)  ふっと小さく溜息を()いた。  二度目の三年。昨年のように他人とのつき合いを避けているわけでもなかった。なんとなく話をするクラスメイトも何人かいる。でもこんな時に一緒に回るほどの仲でもない。  一年の時は嫌々ながら明に引っ張られ、七星や大地たちの後ろにくっついていた。二年の時は七星と同じクラスだった。あの年はおかしいくらいに行事ごとに参加して、文化祭も当日は勿論準備も楽しんでいたと思う。 (そういや、ナナ、今日来るとか言ってたな……) 『俺に会いにくるなよ』  自分が送ったメッセージが頭に浮かぶ。 (俺だって本当は会いたいんだよっ)  心の中で舌打ちをする。 (でも一応……願掛けめいた何か……なんだよな)  明が『一か十しかない』とよく言っている自分の性質を恨めしく思った。  足許の階段を見ていた視線をふと上げると、階段を|上(のぼ)り切ったところに妙に挙動不審な後ろ姿があるのに気づいた。 (……あれって……ひょっとして……。ナナか?)  きょろきょろと周りを見回し、それから樹のクラス方面に足早に向かって行く。樹はその後をゆっくり追い、『お化け屋敷』に並ぶ列を後ろから前に様子を窺いながら歩いている七星を見ていた。 (何やってんだ? ――確か今日はカナや日下部と一緒の筈じゃ)   軽く周りを見渡してもそれらしい姿はない。 (迷子か)  くっと笑いそうになるのを必死に堪えた。  七星は列の一番前まで行くと慌ててスマホを出して何かしらの操作をしようとして――固まった。それからとぼとぼと後ろに戻ってきて、列の最後尾についた。 (え……彼奴、まさか入る気か……)  仕方ないなぁ……というように、小さく息を吐くと七星の後ろに近づいた。全く自分に気づかないその背をトントンと叩いた。 * * 「いっくん……」  七星は改めて小声で樹の名を呼んだ。  学校ではクールなイメージで通っている。そう呼ぶのは七星くらいで、昨年までの同級生ならちらっと耳にしたこともあるだろうが、今のクラスメイトは一学年下だ。そんな風に呼ばれていることは知らないだろう。 (……ま、いっか)  樹は七星の横に並び、列の移動と共に歩いた。

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