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『エピソード 1』ー5

 お互いの手をぎゅっと握り合い、前後を七星の両親と姉に挟まれゆっくりと歩く。  そして――何かがいきなり飛び出してきて。 「ぎゃあぁぁぁーーーーーーーーー」  長い悲鳴を上げ――幼い七星はひっくり返った。手を繋いでいた樹もついでに倒れる。 「ナナっ、ナナっ、大丈夫かっっ」  樹はすぐに起き上がると、七星に声を掛けたが返答せず。どうやら気を失っているようだ。  その後父親が七星を背負って、勿論先をゆっくり見ることなどせず一団は走り去った。 (そういえば、あの日のことはあれからいっさい口にしてないな。ひょっとして、ショックすぎて本当に覚えてないとか?) 「んー」  思案顔の樹。 「いっくん、どうしたの?」 「いや……なんでも……――入るなら俺も一緒に入るよ」 「え?」  ぱぁ……と一瞬七星の顔が明るくなり、その後すぐに「どうして?」というような戸惑いの表情を見せた。 (子どもじゃないんだし、前みたいなことにはならないとは思うんだが……)  実はあの日から怖い系の話をすることも、漫画や動画を見ることも然りげ無く避けているような気がしていたのを思い出した。 (あれは……無意識か)  一抹の不安の中、二人の順番が回ってきた。  七星は入口で既に躊躇していた。 「どうした? やめるか?」 「え? 何で? 大丈夫だよ」  自分の身体の反応にも気づいてないようだ。 「…………」  仕方なく樹が先に入る。 「あれ、城河じゃん」  ゾンビメイクをした受付の一人が声を掛ける。 「?!」  後ろで七星がびくっとしているのを感じた。 「誰? お前が誰か連れてるなんて珍しい」 「…………去年の同級生」 「ふーん」  特にツッコむこともなく、受付二人は仕事用の顔に戻った。相手が女子だったらまた『彼女か?』とかなんとかもう少し突っ込みどころもあるのかもしれないが。 「いってらっしゃいませ〜〜」  恐ろしげな声に見送られ二人は歩き始めた。 (いっくん、あんなふうにクラスメイトとしゃべるようになったんだ)  この後に待ち受けているもののことなど全く頭にはなく、七星はほんわかした気持ちになっていた。  受付の先はカーテンで仕切られている。中に入ると真っ暗だった。途端に七星が動かなくなる。 (しょうがないな)  前に立っていた樹が隣に寄り添うように並び、七星の指先をそっと握った。 (いっくん……)  とくんと甘く胸が鳴る。  しかし、そんな甘さに浸っている場合ではなかった。  障子に映る影! 壁に赤い手形! 井戸から這い出てくる◯子! 「ひっ」とか「ぎゃっ」とかその度に七星の口から短い悲鳴が飛び出る。繋がれていない方の手で樹の腕をぎゅっと掴んでしがみつく。 (く……っ可愛すぎる。抱きしめたい) 初めは指先の方をそっと握っていた樹の手は、次第に掌全体を握り、今は指を絡ませる恋人繋ぎになっている。しかし、七星はそれに気づく余裕もなかった。 (今ならひょっとして、肩抱いたりとかしても……)  そんな欲望が湧き上がる。

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