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『エピソード 2』ー1
** エピソード 2 **
『いっくんの決意破っちゃったね』
『でも僕は』
『いっくんに会えて嬉しかったよ』
既読はつくが返信はこない。
(スルーかな。いっくん、やっぱり怒ってるのかな)
ふっと溜息吐 いてベッドの上にスマホを置く。
そのまま寝転んでうとうとしかけて。
ピコンっと通知音。
『俺も』
『嬉しかった』
**
『俺も――嬉しかった』
最新のメッセージを何度も繰り返し見ては自然に顔が綻んでしまう。
最新と言ってももう二週間前の話だ。
でも。
(この言葉だけで、僕ももう少し頑張れる)
(本当はもっと会いたいけどさ)
十一月半ばの昼下がり。
窓越しに抜けるような青空が見えた。
(こんな日は……なんとなく外に出たくなるよね)
課題をやっていたページを保存し、パソコンの電源を落とした。
(そうだ……)
ふいに思い立って、デスクチェアに掛かっていたカーディガンを羽織り部屋を出た。階下に降りると母がリビングでテレビを観ていた。
「ちょっと出掛けてくるね」
母の後ろを通りながら声を掛ける。
「どこ行くの?」
「ちょっと散歩」
「珍しい。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
外に出るとぽかぽかと暖かく、ますます心地良さを感じる。
通る道はほぼ一緒。高校も大学も同じバス停を使っている為、この辺りでは家からバス停までの往復がほとんどだった。明の家やコンビニへは逆方向に行くが、それも今では滅多にない。
(小学校の頃はいっくんの後をついていろいろ行ったけど……)
懐かしさと切なさが胸を過 る。
そして、これから行くところは――。
行こうとするだけで足が竦みそうになる『あの場所』。
自分の額を指先でさらりと撫でる。前髪が揺れてどちらかと言えば可愛い感じの顔には似つかわしくない傷痕が露わになる。
それは小学六年の時につけられた傷。そのことがきっかけで、それまで六年間いつも一緒だった樹と離れることになった。高校に入学して再会するまで。
傷つけられたその時の『出来事』を七星は未だに引き摺っていた。自分より背の高い男性に目の前に立たれるのが怖い。自分に向かって伸びてくる手が怖い。身体が硬直してしまう。
樹や明くらい慣れてしまった間柄なら平気だけれど。
(メイさんも……最初は怖かった。でも再会して背の高くなったいっくんは……平気だった……)
それはきっと『樹』だからだ。そう思って何故か照れてしまう。
(――いい加減克服しないと)
『そこ』へ行くことが克服になるかどうか自分でもわからない。でも今まで行こうとも思わなかったのに、ふと行ってみようと思えるようになったのは少しは前進しているからなのかもしれない。
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