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『エピソード 2』ー2

『そこ』は昔、七星と樹の二人が『秘密基地』と呼んでいた場所。  家から歩いて十五分程のところにある。高速道路の上の細い道を渡り、神社の前を通り抜ける。その先には道路に面して何故か墓地がある。近くの寺のものだ。 (ここを通るのも最初は怖かったんだよね……いつもいっくんがぎゅっと手を握ってくれてたっけ)  くすっと笑みが零れながらも早足になってしまう。  墓地の前を通り過ぎて急勾配の坂を登り切ると、高い木々に囲まれた公園がある。公園内部にも木々が多く、あまり手入れされていないのか下草も茂っている。  錆びた鉄棒とブランコ。この辺りの歴史を書いた石碑。 『そこ』――坂の上公園はそんなところで、当時はいつ行ってもほとんど人がいなかった。 (今でもそうなんだろうか…………まさか、もうなくなっていたりとか?)  そんなことを思いながらゆっくりと坂を登ると、昔より更に寂れた風情の公園が、それでも残っていた。 (ここは……僕らの秘密基地だった……そうあの日までは……)  懐かしさと痛みが同時に胸を(よぎ)る。  入口に立ち、少しばかり震える足を一歩踏み入れた。  中はしん……と静まり返っている。  ――ここにはいつも人がいない。  公園を囲む木もさほど広くもない公園内のそこかしこに植わっている木も、紅く色付いていて下草の上にたくさんの葉を落としていた。  七星はそれを踏みしめて歩いた。 (桜の匂いがする……)  春には桜が咲く公園の落ち葉の中には桜の葉も多くあり、桜の匂いが立ち込めている。 (そう言えば、樹と出会った年)  初めてこの坂の上公園に来たのは出会った年の秋。半ば無理矢理連れて来られた。やっぱりこんなふうに公園全体が落ち葉で埋め尽くされていた。中程まで入って来たところで急に樹が地面をガンガン足で踏み始めた。 『なに? なにやってるのっ?!』  どこか鬼気迫るような形相で繰り返すので、幼い七星は怯えた。  彼はにかっと笑い、 『ここ桜の木がたくさんあるんだ。こうやって葉っぱを踏むと桜の匂いがするんだ』  言われてみればそんな匂いがする。 『俺、この匂い好きなんだ。桜餅みたいだろ』 『え? 桜餅?』  一般に桜の匂いといえば葉の匂いを想像する。桜の葉の塩漬けが巻いてある桜餅はまさにその匂いだが。 (花より団子だな……)  今はそう思うけど。 『そうだね!』 (あの時の僕もそう思ったし、そういうことを知っているいっくんのことすごいと思ったんだ)  それから秋にはそこに行く度に二人で飛んだり跳ねたりして、桜の匂いを楽しんでいた。でも実はそんなに激しくやらなくても、こうして踏みしめるだけで香ってくるのだけど。  

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