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第5話
「……どけよ」
「どかねー」
「……さっきからお前、言ってることもやってることも意味わかんねーよ。運命のΩを自分のものにしたいとか言いだしたと思ったら、今度は俺をお前のΩだとか言って、そのうえ俺のことが好きだとかさ。どういうことだよ」
「俺の一族は」
観音寺は俺が起き上がれないようにぐっと胸を抑える。
「上位種αの中でも……特異なαの一族なんだ」
「……それが何」
生徒会に所属できているほどなのだから、こいつのα性の強さも誰もが認めるところだろう。
しかし、そんなのは俺だって同じだ。
だからどうしたというのか。
俺を押さえつける観音寺の腕を邪魔だな、なんて思いながら握った。
俺を上から眺める観音寺の目には――心なしか愉悦が混じっているように、見えた。
「俺の一族は、その強いα性で……αやβを、Ωに変えることができる」
「……え?」
「転換だ。性転換。お前も聞いたことぐらいはあるだろう。αが自分よりも強いαのフェロモンや精液を受け続けて、Ωに変わる。俺の一族は、母親は今はΩだが、昔はαだったのが親父と付き合ってΩになったと聞いているし、αの兄貴に嫁入りしてきたΩも元はβだ。姉貴は元からΩだから俺達のような特殊能力は無いけど、αだったら俺達と同じように好きな奴をΩにして、番になったはずだ」
「……」
「俺の一族は好きな相手をΩにして、番にできる。だから同じ男の……αのお前のことを好きになったって、何の問題も無いんだよ」
「……同じ男の……αを、Ωに……」
「真城。お前を俺のΩにする。そうすればお前が俺の番だ」
状況を呑み込むような暇は無かった。
俺は必死で暴れた。
同じような体格の奴に抑え込まれていてどうしようもなかったが、殴る。蹴る。頭突き。肘打ち。逃げるためになんでもした。
観音寺の下から抜け出した俺は、脱兎のごとく部屋から飛び出して、自室へ戻った。
今聞いた話は、本当なのか。
本当だとしたら、あいつに好かれた……しかも中学の頃からだと、筋金入りだ。そんな俺は、どうなるというのか。
αがΩに堕ちるというのは、AVなんかではままある設定だ。
αばかりが在籍するクラスでその一員だったαが突然Ωに性転換してしまい、クラスの性処理係になるだとか、プライドの高いαが自分より強いαにΩにされて激しくレイプされ続け性奴隷化するだとか――そういう類のAVを、俺も見たことが無いわけじゃない。
でも、本当にある話だなんて思っていなかった。
それも、こんなに近くにいる奴が、その当事者だとは思わなかった。
そいつが俺のことを好きだなんて戯言を吐いているのも、信じがたかった。
そして、αをΩに変えてしまう観音寺のα性を前には、性別なんてものは無意味で、壁にもならない何の役にも立たないものだと悟った。
あいつは、同性を好きになっても構わないのだと言った。
なぜなら自分の手で相手を自分のΩに作り替えられるから。
そんな恐ろしいことが、あっていいのだろうか。
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