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第7話 変化
第七隊の一件以降、城内の空気はわずかに変わった。
処分の見直しと新たな規定の導入。
それ自体は国の一施策に過ぎない。だが、その判断の場に“他国の騎士”が関わっていたことは、少なからず波紋を呼んでいた。
そんな中ーー。
「リヨン、来い」
その日も、呼び出しは唐突だった。
執務室に入るなり投げられたのは、山のような書類だ。ずっしりとした重みに、俺は慌てて落とさないようしがみつく。
「これを見ろ」
「……財政報告、ですか」
「どう見る」
簡潔すぎる問い。そして、まるで試すような視線。
「私は専門ではありませんが」
前置きしつつ目を通す。数値の並びに、わずかな偏りがある。
「この支出、少し不自然です。現場の裁量が増えた影響かと」
言うと、ヴィルユーグは短く頷いた。
「同じ見解だ」
それだけで会話は終わらない。
「では、どう修正する」
続けて問われる。
俺は考えをまとめ、口を開いた。
そのやり取りを、すぐ側で控えていた文官たちが、無言で見ているのが分かる。
視線が、痛い。
(なぜ、俺に……)
疑問は消えない。
だが、ヴィルユーグは気にする様子もなく、当然のように言葉を重ねる。
「リヨン、お前の案で進める」
「……よろしいのですか」
「問題があるか」
「いえ」
即答され、言葉を飲み込むしかない。
そのやり取りの間、他の臣下には一切視線が向けられていない。
明らかに、異質だった。
それは執務室だけに留まらなかった。
視察の場でも同じだ。
「リヨン、どう見る」
街の整備状況を前に、当然のように問いが飛ぶ。
隣にいるのは大臣でも将軍でもない。
隣国の騎士である俺だ。
「……問題はありません。ただ、南区画の流通が少し滞っています」
「理由は」
「導線が一箇所に集中しているかと」
簡潔に答えると、ヴィルユーグは即座に指示を出す。
「分散させろ」
それで決定だ。
周囲の者たちが一瞬だけ目を見開くのが分かる。
だが、異議を挟む者はいない。
王が決めた。
それだけで全てが動く。
そして、その判断に、俺の言葉が混ざっている。
周囲からの視線が突き刺さる。
驚き、困惑、そして、純粋な興味。
客間に戻る途中、案内役の若い文官が、控えめに声をかけてきた。
「……あの」
「何ですか?」
「陛下と、よくお話しされるのですね」
曖昧な言い方だが、言いたいことは分かる。
「たまたまですよ」
そう返すと、文官は苦笑した。
「皆、驚いています。陛下があそこまで一人の意見を聞かれるのは、珍しい」
「そうなんですか」
「ええ。それに……」
言いかけて、少しだけ言葉を濁す。
「あなたは、その……」
視線が、こちらの顔へと向く。
「……目立ちますから」
言葉を選んだつもりだろうが、意味は十分伝わる。
「綺麗だ、と言う者もおります」
思わず、眉をひそめた。
「そういう話ではないだろう」
「ですが、人はそういうものです」
あっさりと返される。
執務室での視線の理由が、少しだけ理解できた気がした。
能力だけではない。
外見もまた、余計な注目を集めている。
(面倒だな)
内心で息を吐く。
その時だった。
「リヨン」
背後から、低い声がかかる。
振り返ると、いつの間にかヴィルユーグが立っていた。
「次の資料だ。来い」
それだけ言うと、当然のように踵を返す。
「……御意に」
慌てて後を追う。
文官は小さく頭を下げ、反対側に去って行った。
廊下を進みながら、ふと気づく。
呼ばれる頻度が、明らかに増えている。
その分会話の時間も、長くなっている。
そして何より――。
「リヨン」
名前を呼ばれる回数が、増えた。
(……なぜだ)
理由は分からない。
ただ一つ確かなのは、俺は今、確実にこの王の“視界の中”にいるということだった。
それが何を意味するのかは、まだ分からないまま。
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