7 / 11

第7話 変化

 第七隊の一件以降、城内の空気はわずかに変わった。  処分の見直しと新たな規定の導入。  それ自体は国の一施策に過ぎない。だが、その判断の場に“他国の騎士”が関わっていたことは、少なからず波紋を呼んでいた。  そんな中ーー。 「リヨン、来い」  その日も、呼び出しは唐突だった。  執務室に入るなり投げられたのは、山のような書類だ。ずっしりとした重みに、俺は慌てて落とさないようしがみつく。 「これを見ろ」 「……財政報告、ですか」 「どう見る」  簡潔すぎる問い。そして、まるで試すような視線。 「私は専門ではありませんが」  前置きしつつ目を通す。数値の並びに、わずかな偏りがある。 「この支出、少し不自然です。現場の裁量が増えた影響かと」  言うと、ヴィルユーグは短く頷いた。 「同じ見解だ」  それだけで会話は終わらない。 「では、どう修正する」  続けて問われる。  俺は考えをまとめ、口を開いた。  そのやり取りを、すぐ側で控えていた文官たちが、無言で見ているのが分かる。  視線が、痛い。 (なぜ、俺に……)  疑問は消えない。  だが、ヴィルユーグは気にする様子もなく、当然のように言葉を重ねる。 「リヨン、お前の案で進める」 「……よろしいのですか」 「問題があるか」 「いえ」  即答され、言葉を飲み込むしかない。  そのやり取りの間、他の臣下には一切視線が向けられていない。  明らかに、異質だった。  それは執務室だけに留まらなかった。  視察の場でも同じだ。 「リヨン、どう見る」  街の整備状況を前に、当然のように問いが飛ぶ。  隣にいるのは大臣でも将軍でもない。  隣国の騎士である俺だ。 「……問題はありません。ただ、南区画の流通が少し滞っています」 「理由は」 「導線が一箇所に集中しているかと」  簡潔に答えると、ヴィルユーグは即座に指示を出す。 「分散させろ」  それで決定だ。  周囲の者たちが一瞬だけ目を見開くのが分かる。  だが、異議を挟む者はいない。  王が決めた。  それだけで全てが動く。  そして、その判断に、俺の言葉が混ざっている。  周囲からの視線が突き刺さる。  驚き、困惑、そして、純粋な興味。  客間に戻る途中、案内役の若い文官が、控えめに声をかけてきた。 「……あの」 「何ですか?」 「陛下と、よくお話しされるのですね」  曖昧な言い方だが、言いたいことは分かる。 「たまたまですよ」  そう返すと、文官は苦笑した。 「皆、驚いています。陛下があそこまで一人の意見を聞かれるのは、珍しい」 「そうなんですか」 「ええ。それに……」  言いかけて、少しだけ言葉を濁す。 「あなたは、その……」  視線が、こちらの顔へと向く。 「……目立ちますから」  言葉を選んだつもりだろうが、意味は十分伝わる。 「綺麗だ、と言う者もおります」  思わず、眉をひそめた。 「そういう話ではないだろう」 「ですが、人はそういうものです」  あっさりと返される。  執務室での視線の理由が、少しだけ理解できた気がした。  能力だけではない。  外見もまた、余計な注目を集めている。 (面倒だな)  内心で息を吐く。  その時だった。 「リヨン」  背後から、低い声がかかる。  振り返ると、いつの間にかヴィルユーグが立っていた。 「次の資料だ。来い」  それだけ言うと、当然のように踵を返す。 「……御意に」  慌てて後を追う。  文官は小さく頭を下げ、反対側に去って行った。  廊下を進みながら、ふと気づく。  呼ばれる頻度が、明らかに増えている。  その分会話の時間も、長くなっている。  そして何より――。 「リヨン」  名前を呼ばれる回数が、増えた。 (……なぜだ)  理由は分からない。  ただ一つ確かなのは、俺は今、確実にこの王の“視界の中”にいるということだった。  それが何を意味するのかは、まだ分からないまま。

ともだちにシェアしよう!