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第11話 添い寝

 寝室は、私室同様に簡素だった。  壁際に置かれた広い寝台と、小さな卓が一つ。それ以外には、ほとんど何もない。  装飾も、余計な調度もない空間は、ひどく静かで――どこか逃げ場がないように感じられた。 (……ここで、二人で)  視線が自然と寝台へ向く。  大人が二人寝ても余裕のある広さ。  それが、かえって現実味を帯びてくる。 「何をしている」  背後から低い声がして、俺は思わずピクッと震えた。  振り返ると、ヴィルユーグがシャツのボタンを外しくつろげているところだった。 「……いえ」  そこから見える鎖骨が妙に艶かしくて、俺はふいっと視線を逸らす。  普段はカッチリと首元までとめているため厳格な雰囲気だが、ラフな姿は色気がダダ漏れで別人のようだ。  いつも眉を寄せているから気づかなかったが、切れ長の瞳に彫りの深い目鼻立ち。それに、濡れたように艶やかな黒髪。  ヴィルユーグは相当な美形だ。 「何を躊躇している?問題はないだろう、体温を共有するだけだ」 (そういう問題では……)  言い返せないまま、リヨンは小さく息を吐いた。  ヴィルユーグが先に寝台に腰掛け、上掛けをめくった。 「来い」  短く促され、逃げ道がなくなる。  観念したように視線を落とし、リヨンはゆっくりと寝台へと歩み寄った。  ぎこちなく寝台に腰を下ろす。 「……失礼します」  一度だけ深く息をつき、意を決して横になる。  その直後、隣に重みが加わった。  思わず身体が強張る。 「……っ」  距離を取ろうと、わずかに身を引いた、その時。 「離れるな」  低い声と共に、腹の前にがっしりとした腕が回る。 「……しかし」  思わず言い返すが、「それでは意味がない」と即座に切り捨てられる。 「体温の共有が目的だろう」  正論だ。だが――。 (だから、そういう問題ではない……)  もっと言いたいことはあるが、言葉を飲み込み結局動きを止める。  その瞬間。  リヨンの背中が、ヴィルユーグの体全体に包まれた。  ――近い、近い、近い!  改めて実感する。  この男は相当鍛えており、俺が押し返そうとしても無駄であることを。  ドクン、ドクン、ドクン。  心臓がうるさいくらいに鳴り響く。 (まさか、この音気づかれてないよな?)  そう思って、恐る恐る振り返る。  ヴィルユーグは何事もないように横たわっており、目を閉じている。 (……本当に気にしていないのか)  その自然さが、余計に落ち着かない。  息を吸うたび、空気が揺れる。  そのたびに、隣の存在を感じてしまう。 (……こんなんで本当に眠れるというのか)  目を閉じても、神経は研ぎ澄まされたままだ。  何か、何でもいいから考えろと思っても思いつくのは3つの言葉。  婚姻、同盟、戦争。  それらが、ぐるぐると頭を巡る。  はあ、と小さくため息をつき俺は半ば諦めたように思考を放棄した。  そのうち、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。 (本当に……寝たのか)  俺は少し力を抜いて、ヴィルユーグに背中を預けた。  ややあって、体に体温が染み込んできた頃、俺も意識を手放すのだった。

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