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第12話 朝の戯れ
まどろみの中で、リヨンはかすかに身じろいだ。
柔らかな温もりが、すぐ傍にある。
どこか安心するような、心地よい熱。
無意識に、それを追うように身体が寄る。
指先に、何かが触れる。さらり、とした感触。
髪を梳かれるような、くすぐったい感覚。
(……あたたかい)
もう少しこのままでいたい。
「起きろ」
聞き慣れた声が、すぐ近くで落ちた。
「へい……か……?」
まだ夢と現の間にいる俺は、掠れた声で目の前の男を呼んだ。
(なんで、ここにいるんだろう……?)
ぼうっとする頭では、現状が掴めずふわふわと浮かんでいるようだった。
「ほら、起きるんだ」
「あと、すこ……し」
そう言って、意識が急に浮上する。
「……っ」
目を開けた瞬間、視界いっぱいに黒髪が映る。
息がかかるほどの近さに、ヴィルユーグの顔があった。
(――近い!近い!近い!)
一気に現実が押し寄せる。
そして昨夜のことが、断片的に蘇る。
同じ寝台で、眠って――。
「……っ」
反射的に身体を引こうとして、動きが止まる。
(俺、いま何を……!)
自覚するより早く、頬に熱が集まる。
「やっと起きたか」
何事もなかったかのような声音。
ヴィルユーグが肩肘をついて、俺を見つめている。
こんな失態、怒られるに決まっている!と俺は身を固くした。
だが、その視線がわずかに細められていることに気づく。
「……そういう顔もするのだな」
その声にはわずかに愉しむような響きさえも感じられる。
「……っ」
言葉に詰まる。
からかわれていると気づき、余計に顔が熱くなる。
「い、いえ……その……」
俺はうまく言葉にならず、口篭った。
その様子を、ヴィルユーグは静かに見ている。まるで、珍しいものでも観察するように。
「リヨンは朝が弱いのか」
「……いえ、そんなことは」
反射的に答えるが、説得力はない。
実際、まだ頭はぼんやりしている。
「騎士としては、どうなんだ」
淡々とした指摘。
別に咎めるような言い方ではなかったが、俺は無意識に謝っていた。
「……っ、申し訳ありません」
これ以上寝転んでいる方がまずいだろうと、ピッと身を起こす。
(……何をしているんだ、俺は)
内心で強く自分を叱責する。
かつては、どれだけ眠くとも起きていたし、任務に遅れるなど、あり得なかった。
それが今は。
「……気が緩んでいるな」
小さく呟く。
この国に滞在してから、どれほど経ったのか。
もしかして……。
(弛んでいる……?)
ここに残ること、それ自体が俺に悪影響を与えているのではないだろうか。
頭を抱えると、ふと先ほどの感触が脳裏をよぎった。
髪を、撫でられていたような――。
「……」
ちらりと視線を向ける。
ヴィルユーグはすでに起き上がり、何事もなかったかのように身支度を整えている。
その表情からは、もう何も読み取れない。
(……気のせいか)
そう思うのに、胸の奥が妙に落ち着かない。
ここは敵国だ。
自分は任務のためにいる。
それなのに。
昨夜の距離も、今のこの感覚も――全てがくるわせてくる。
「支度をしろ」
振り返ったヴィルユーグに、短く告げられる。
「……は、はい」
俺は慌てて返事をして、ベッドから降りた。
立ち上がりながら、俺自身に言い聞かせる。
(……しっかりしろ)
それでも、胸の奥に残るざわつきは消えなかった。
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