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第18話 激昂
その夜。
夕食の味は、ほとんど覚えていない。
(……何なんだ、あの男は)
頭の中がぐるぐると回る。
部屋の中を歩きながらも、思考が止まらない。
(俺を、好きだとでも言うのか)
あり得ない。
合理的な冷酷男だぞ。
そう否定したいのに――。
あの言葉は、あまりにも真っ直ぐだった。
(手に入れたい、だと……?)
顔が熱くなる。
頭の中からヴィルユーグの声が消えてくれない。
思い出すだけで、心臓がおかしくなる。
「……っ」
思わず顔を覆う。誰も見てやしないのに。
(落ち着け、落ち着け)
深呼吸する。
しかし、全く落ち着かない。
そんな時、コンコンと控えめにドアがノックされた。
まさか、と思わず身構えたが、顔を覗かせたのは侍従だった。
「陛下がお呼びです」
ドクン、と心臓が跳ねる。
ヴィルユーグが何を考えているのかさっぱりわからない。
けれども、俺に拒否権はない。
思わず侍従に八つ当たりの言葉を投げかけるところだったが、意味のないことだとグッと押し止まり「ああ」と一言だけ告げた。
どんな顔をすればいいのか分からないまま、俺はヴィルユーグの部屋へと足を運ぶ。
だが――。
部屋の扉を開けても、そこにヴィルユーグの姿はなかった。
「……?」
呼び出したのはそっちだろ、と悪態をつきたくなる。
どうしようかと迷いながらも、俺は室内に足を踏み入れた。
相変わらず簡素で静かな部屋。
俺はソファに腰を下ろした。
その時。
視界の端に、机が映る。
いつも通り、その上には書類が積み重ねられている。
しかし、俺はそこに違和感を覚えた。
「……あれは」
見覚えのある色の封筒だ。
思わず立ち上がる。
そして、手に取る。
確かめるまでもない。
それは、リヨンがクラウスに預けた手紙だった。
「……なぜ」
頭が真っ白になる。
その時、扉が開いた。
「……何をしている」
部屋の主だ。
だが、俺は振り返らない。
封筒を握りしめたまま、低く言う。
「……どうして、これがここにある」
さきほどまで感じていた苛立ちとは違う、胸の奥がぐらぐらと湧くような怒り。
「手紙はすべて検閲している」
俺の質問に、ヴィルユーグは淡々と答えた。
「スパイ防止のための措置だ」
「……だったら、なぜ貴方が持っている」
視線がぶつかる。俺はあえて逸らさなかった。
「検閲したなら、出されているはずだ」
無意識に言葉が鋭くなる。
「……俺を、スパイだと疑っているのか?」
ヴィルユーグは答えない。
でも、ほんのわずか、視線が揺れた。
その曖昧さが、何よりの答えだった。
「……そうか」
胸の奥が冷える。
信じかけていたものが、音を立てて崩れる。
あの時間も、言葉も。
全部、全部……。
(俺はただの駒だったってわけだ)
血が出そうなほど強く唇を噛む。
怒りだけじゃないことに、自分自身気がついていた。でも、どうすることもできない。
ただ、今は衝動的に動くことしかできなかった。
「……出ていく」
短く言い放ち、俺は目の前の男の横をすり抜けた。
ヴィルユーグが何か言いかけていたが、聞きたくない。
「待て――」
俺はヴィルユーグを見ることなく、ドアノブを捻る。
そして廊下に音が響くのも構わず、思いっきり扉を閉めた。
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