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第25話 告白
アルヴェリアを発ってから一日。
途中の宿場町で一泊を挟み、再び馬車はグラディウスへ向けて進んでいた。
窓の外を流れる景色を眺めながら、俺は小さく息を吐く。
(なんなんだ、本当に……)
隣をちらりと見る。
ヴィルユーグは静かな顔で書類へ視線を落としていた。
一見、いつも通り。
だが問題はそこではない。
肩が触れている。
いや、正確には抱き寄せられている。
昨日の馬車の中で抱き締められて以降、ヴィルユーグは妙に距離が近かった。
宿へ移動する時も自然に腰へ手を回され、食事の時も隣を指定され、気づけば指先まで絡められている。
宿は別部屋だったのでいいが、馬車内では逃げ場がなく気まずい思いを抱く羽目になっていた。
しかも本人に悪気がないのがタチの悪いところだ。
「へ……ヴィル」
「なんだ」
「近いです」
「そうか?」
「そうです」
即答すると、ヴィルユーグは不思議そうにこちらを見る。
本当に分かっていない顔だった。
拒めば離すのだろう。
しかし、以前のような強引さが消えたせいで、逆に拒みづらかった。
嫌ではないから、なおさら。
馬車が揺れる。
するとヴィルユーグの腕が自然に俺の肩を抱き寄せた。
「だから近いんですって……」
「揺れたぞ」
「子どもじゃないんですから」
「落ちたら困る」
「落ちません」
そう返しながらも、振り払えない。
以前ならもっと警戒していたはずなのに。
今は、腕の重みすらどこか安心してしまう。
まさか、たったひと月ほどで慣らされてしまったなんてことに……。
そんなことを考えているうちに、馬車はグラディウス城へ到着した。
着いた時にはすでに日は傾いており、夕飯をとった後はすぐに休むことになった。
しかし、俺は与えられた客室ではなく、ヴィルユーグの私室へ足を向けていた。
あることをどうしても確かめたかったからだ。
扉を叩けば、すぐに反応が返ってくる。
「入れ」
中へ入る。
相変わらず殺風景で、広い部屋。
ヴィルユーグは執務椅子から立ち上がると、真っ直ぐリヨンを見た。
「……手紙の件だが」
俺は目を瞬く。俺はそれを聞きにきたのだ。まさか、ヴィルユーグから切り出されるとは思わなかった。
ヴィルユーグは少し思案する仕草を見せた後、口を開いた。
「外交書簡は検閲対象だ。敵国相手なら尚更」
「……それは理解しています」
俺は静かに頷く。
王として、国として当然の判断だ。
問題は、その先。
「なら、なぜ陛下……ヴィルが持っていたんです?」
問いかけると、ヴィルユーグは少しだけ視線を伏せた。
沈黙。
やがて低く掠れた声で、ヴィルユーグは言った。
「……返したくなかった」
俺はその言葉に、息を呑む。
「お前が帰ると言うのが嫌だった」
「……」
「アルヴェリアへ戻るのも、私の知らないところへ行くのも」
淡々としているようで、その声には妙な熱が滲んでいる。
「な……なぜ……?」
「手放したくなかった」
漆黒の瞳がじっとこちらを射抜くように見つめる。
胸がざわつく。
利用価値?外交?同盟?
いや、そういう話ではない。
「どうして……俺なんかを……」
「リヨンだからだ」
真っ直ぐな言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。
ヴィルユーグが立ち上がり、俺に近づいてくる。
「私は君を好ましいと思っている」
「あ……」
「……私の気持ちは迷惑だろうか?」
静かな問い。
以前なら、有無を言わさず命令していたこの男が。
今はリヨンに選ばせようとしている。
「わからない……です」
だが、答えられなかった。
「そうか」
その声音には怒りも悲しみも無かった。ただ、拒まれなかったことへの安堵を感じた。
「俺は……誰かを好きになったことも、その必要性を持ったこともないですから……」
ヴィルユーグが俺の手を取る。そして、それを己の唇へと持っていった。
「では、君に意識してもらえるよう、努力しよう」
「……っ!でも、俺は男で……皇族ではありますが別に地位が高いわけではないから……」
あなたに相応しい人ではない、と言おうとしたが、その言葉はヴィルユーグによって遮られる。
「性別は関係ないし、地位なんかいらん。君が、君のままでいるならそれでいい」
俺はそれを聞いて、唖然とした。
なんて情熱的な口説き文句なのだろう。
昨日からヴィルユーグの気持ちに触れ、俺は軽く混乱している。
それでもやはり……他の人からの告白とは違う何かを感じていた。
「そ、そうですか……物好きですね」
誤魔化すように軽口を言うと、ヴィルユーグはくすりと笑った。
「さて、夜も遅いが……どうする?部屋に戻って寝るか?」
ズルい男だ。ここまで曝け出しながら、リヨンに選択肢を与える。
部屋に戻ったとて、眠れるとでも思うのか。
「……盤ゲーム、やりますか」
ヴィルユーグが少し目を見開く。
それから小さく頷いた。
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