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第5話 本社規定
「それは出来ないよ。本社規定があるからね。」
「深夜勤務の責任者は正社員ですか?
嘱託の人では何があった時、どこまで責任が持てるんでしょうか?」
(あーあ、これで森野くんの出世の道は無くなったな。)
世間知らずの俺でもそれくらいわかる。
「森野くん、労基に報告して責任者を決めるから。家で言わないでくれ。」
係長が歯切れの悪い言い方をした。
(なんで、家が関係あるんだ?)
事務の女性たちが騒いでいる。3人いる事務員はみんな50代だ。
「森野くんってなんか色々噂があるんだって。」
本社の営業がたまに見回りに来ると事務所でお茶を飲んでサボって行く。お茶菓子を持って来て、時間を潰す。
「昨日来た査察の社員が言ってたんだけど。」
「ウチの社長の名前、知ってる?」
誰かがスマホで調べた。
「森野善太郎、だって!」
「新人の森野くんって、名前、俊太郎だよね。」
「社長の息子?」
「いや、孫かも。年齢的に。」
もう会社中その話で持ちきりだった。
一緒に来た加藤早紀は恋人なのか?
もうそこまで話は進んでいた。
「おばちゃんたち、話、作るのやめなよ。
社長の息子とか、婚約者とか、何の根拠もないんだろ。」
みんながっかりしている。
「夢が無いなぁ。」
「だって、あんなボロい家に住むって言ってるんだよ。」
見つけた物件はボロな古民家だった。買った車も古いジムニーだった。
「お金無いのかしら?」
そんな噂の種にされていることも知らず、森野さんは嬉しそうに引越しの準備をしていた。
「加藤さんも矢島さんも通勤大変ならウチに住んじゃえば。部屋はたくさんあるんだよ。」
見つけた古民家は寄せ棟の大きな屋根のある部屋数も多いボロ家だった。
「古民家再生、きっと楽しいよ。」
森野くんの古民家再生の手伝いは,結局俺に回って来た。
「田神(たがみ、俺の事)、手伝ってやれよ。
若い奴少ないんだから。」
みんなに責められて引き受けてしまった。
「俺、大工仕事とか、やった事ないよ。
戦力外だと思うなぁ。」
それから森野くんと過ごす時間が増えた。気がつけばいつも二人でいる。
古民家専門の大工さんが来る。仕事の合間に泊まり込んで大規模修繕になった。
結構お金がかかる。森野くんは金持ちなのか?
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