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第9話 蚕部屋

 神社仏閣を主に施工して来た小野田さんに聞いてみた。 「何で古民家の修復専門になったんですか?」 「日本建築を学んでいたのだけど、暫くぶりに地元に帰って来たら,空き家ばかりで、いい感じの古民家が朽ち果てていた。」  小野田さんはこの辺りのもう少し内陸の出身だそうだ。宮大工は奥が深いが道半ばで、見るに見かねて方向転換せざるを得なくなったという。 「それで俺たち,知り合えたんですね。」  嬉しくて思わずそう言ってしまった。 「屋根裏を見てもらいたい。上がれるかい?」  小野田さんが手を伸ばして掴んでくれた。その手を握って天井に上がった。  俺はもうドキドキだ。 「天井裏も結構広いだろ。」  太い梁を越えて行くと屋根裏と言っても立って歩ける板張りの広間があった。 「昔はここで蚕を飼っていたんだよ。」  俺は初めて蚕というものを知った。物ではない。生きた虫だ。今はもう飼ってはいない。 「絹織物が名産だったんだ。」  虫の繭から絹糸が取れる。不思議な気がした。 庭に桑の木が多いのは、蚕の餌だからだ、と教えてくれた。 「なんかいい話だ。絹糸か。」  この古民家の元の持ち主は農家だったそうで、農作業がやりやすくなっている。今は使わない珍しい道具がたくさんある。  俺は少しだけ農業の大変さを経験した。ウチの狭い庭でも耕して作物を育てるのはたいへんだった。怠け者の俺はすぐに挫折してしまった。  同級生には農家の子供も多かった。ほとんどが後を継がない。みんな都会に出て就職してしまう。それさえ出来なかった俺は引きこもるしかなかった。  カッコいい仕事ぶりの大工さんたちに尊敬の念を覚える。時々教えてくれる小野田さんに懐いてしまった。手を取って天井裏に案内してくれた事で有頂天になってしまった。  痩せ型だが逞しく太い腕につかまって高い所を見せてもらうのは、嬉しい。 「鳶の仕事なんかもっと高い所に上がるんだよ。 今度屋根の上に上がってみるかい?  ここでも富士山が見えるよ。遠いけどな。」 肩を抱かれて支えられて俺は緊張した。

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