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第15話 過去
その夜は、同じ部屋に崇さんが眠っていると思うと俺は中々寝付けなかった。
何度も寝返りを打つ。風呂で見たあの崇さんの身体が頭の中でぐるぐる回っている。
俺は男が好きなのか? いや、崇さんが好きなんだ。
崇さんを好き、という言葉を初めて意識した。
そうだった。あの役者の萩原鷹尾に、こんなにも惹かれたのは男だから、か?
でも、萩原鷹尾に似ているから小野田さんに惹かれている訳ではないと思う。
本人が隣で眠っている。画面で見る役者とは違う。どんなに焦がれても役者は実態を持たない。
生きて呼吸をしている人間の魅力には勝てない。息づかいが感じられない。
(はあーあ。)
崇さんは実在する。目の前で呼吸している。
俺はすっかり虜になってしまった。
一体どうしたんだろう。あの身体を見たからか。
(俺は女を知らない。崇さんがあの手で女を抱く、と思うとツラい。)
眠れない夜は妄想が頭から離れない。朝になれば恥ずかしさに死にたくなるのに。
引きこもっていた時、いつも死ぬ事を考えていた。生きる事にそれほど価値があると思えなかった。生きていても死んでも、同じ様に閉塞感と絶望しかないように思えたのだ。
あの暗闇に二度と戻りたくは、ない。
引きこもりの部屋はぬるま湯で出来ていた。暖かく安全なふりをして心を侵食してくる。
あの頃の心の支えは役者の萩原鷹尾だった。
今は本物の生きた人間が現れた。小野田さんだ。
(俺が求めていたのはこの人だ。)
落ち着け、俺。深夜、気持ちが昂って思い込みが強くなっているだけだ。朝になれば魔法が解ける。それなのに求めて止まない気持ちが収まらない。
朝になってみんな起き出して来た。
「うう、二日酔いだ。気持ち悪!」
ケンタが頭を抱えている。
「僕もダメだぁ。吐きそう!」
シュンも泣き言を言っている。
「日本酒は次の日残るんだよ。
今度は焼酎にしよう。」
「一生,酒飲まない!考えたくない。う、う。」
「あれぇ?カイは平気なんだ?
小野田さんと遅くまで飲んでたって?」
「惚れちゃった?
小野田さんは男にも女にもモテるからねぇ。」
朝早く野菜を届けてくれたヨシさんが言った。
(勘の鋭い人だ。何でわかるんだろう?)
俺は焦った。昂っていた気持ちは朝になると萎んで消えた。
(男にもモテるって⁈)
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