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第39話 婚約者
会長の息子,栄介は毎日、昼と三時にお茶を運んでくる。同じ敷地に組の事務所と自宅があるからそこから運んでくるのだ。
「そんなことは若いもんにさせろ。」
「父さん、家の進捗状況も見たいんだよ。」
この息子はいつも自分の車で町まで茶菓子を買いに行く。そしていそいそとお茶を淹れる。
献身的な若にみんなは怪訝な顔をした。初めは気にしていなかったタカシも毎日来るので何だか気兼ねになった。
「若、お茶なんか自分等でやりますから。」
「気にしないで。俺、毎日家が出来てくるのを見るのが楽しいんだ。」
この頃、タカシはもう自分が同性愛者なのを自覚していた。もちろん仕事とは、きっちり分けている。男ばかりの職場で要らぬ誤解は避けたい。
仕事仲間に手を出した事はない。女が放っておかないので、相手になる事もある。いわゆるバイだ。
若は毎日顔を出して、お茶を淹れてくれる。
「このみやざく餅は、この辺りの名物で、今にも潰れそうな店なんですが、俺、応援してるんですよ。」
車で買いに行ってくれたらしい。
「甘いもの、いかがです?」
「ああ、私は酒飲みで、甘いのはちょっと苦手だ。でもせっかくだから、頂くよ。」
きな粉をまぶした素朴なあんこの餅は、一つでたくさんか、と思ったが意外と後を引く味だった。
「甘過ぎなくて美味いな。」
思わず目を合わせて見つめ合ってしまった。
頬を染めて俯いたこの若者に見惚れてしまった。
きれいな顔だ。
(まずい!この人はゲイじゃない。好きになってはいけない。しかし俺の好み,ど真ん中だ。)
今までも自分の性癖に苦労して来た。
数日後。
派手な嬌声が聞こえて来た。若が女性を伴って歩いて来た。
「美味しいどら焼きを買ってきたのよ。
有名なお店みたい。召し上がれ。」
賑やかに入ってきたのはきれいな女性。
「こんにちは、こちらは、風間華子さん。」
「私、この栄介さんの婚約者なの。
結婚したら住む家を見に来たのよ。」
腕にぶら下がるように抱きついて挨拶された。
「ごちそうさまです。」
奥の職人仲間に声をかけた。
「ヨシさんたち甘いもの,好きでしたね。
頂いてください。」
タカシは動揺が収まらない。婚約している事は知っていたのに、目の前に現れると胸がざわつく。
上州風間一家のお嬢。華やかな雰囲気をまとって女の色気を振りまいている。
(この人を若は抱いたりするのだな。)
何故こんなにつらくなる?
タカシは自分がわからなくなった。
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