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第40話 職人
栄介は、大工の仕事ぶりを憧れの目で見ていた。刻みの見事な組み木。寸分違わず木と木が組み合わさっていく。墨壺から伸びた糸で引く直線。指でピンとはじく。見事に材に黒線を写す。
タカシは見られているとやりにくいが、仕事に没頭すると栄介のことも忘れてしまう。
いつまでも思いを引きずらない。
栄介はタカシの仕事を見るのが楽しい。
全く無駄のない動き。
お茶の時間になった。美味いほうじ茶をタカシに手渡す。熱々のほうじ茶が好きだと言っていた。ヨシさんや数人の職人が集まってきて茶を啜る。出された羊羹にも手を伸ばす。
「美味いっすね。虎屋の羊羹か。贅沢だ。」
「舟和のあんこ玉も好きだ。いろんな味があるんだよ。あと、芋羊羹も美味い。」
「うへぇ、胃がもたれそうだ。
俺は草加せんべいがいいな。」
「崇さんは酒やめれは胃もたれしないよ。」
職人たちの雑談が和やかでいい。
栄介は、縛りの多い自分の立場を考えた。
自分の好きなように生きたかった。
極道の跡目を継ぐなんて。ガキの頃は簡単に考えていた。簡単にNOと言えると。
気がつけば将来の生き方も決まっていた。
嫁さえ決められていた。
極道の世界は保守的だ。平気で暴力を行使する。仁義を通すならそれは正義だ。
男尊女卑。女は今でもバシタという。場下。
屈辱的な言い方。女は立場が下だ、という考え方。
それでも昔の殿様の政略結婚と同じく、縁を結ぶのは重要な繋がりを構築する事だった。
上州風間一家の娘、風間華子は栄介が小さい頃から親同士が決めた許嫁(いいなずけ)だった。
しょっ中顔を合わせていた。極道の娘とは言え、気立てのいいお嬢さんだ。
栄介も憎からず、思っていた。
「栄介、あたし、大きくなったらお嫁さんになってあげる。栄介は弱虫だから、あたしが守ってあげる。」
二つ年上にも関わらず栄介は、華子に頼っていた。隣の県で暮らしている華子は、頻繁に家に遊びに来た。
「ヤクザだから遊びに行く友達がいないんだよ。
栄介も誰も来ないでしょ、同級生?」
ヤクザの子供はみんなに敬遠されていた。
大きくなるにつれて美しく成長した華子。
でも、仲良くしていても、心はときめかないのだ。
「ねえ、栄介はセックスしたくない?
あたしと。」
ドキッとするような事を平気で言う華子。
でも栄介は全然したくないと思った。
不思議な事に華子には何も感じない。
年頃になって自分で処理するようになっても華子には興味を持てなかった。
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