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第41話 自分の性癖

 そして栄介が気になっているのは、大工の崇さん。今はもうあの頃のガキではない。  男らしい仕事ぶりに目を奪われる。無駄のない動き。ひらりと身軽に高い所に上がる。  その一挙手一投足から目が離せない。気がつくとかなりの時間を現場で過ごしている。  極道と香具師(やし、テキヤ)は違う。 それぞれ一本筋の通った掟がある。構造が違うのだ。原始共産主義とでも言えるテキヤの組織が羨ましいと思った事がある。  売るものがある香具師の商売は技術だ。 啖呵売(タンカバイ)などは聞く者を魅了する。 芸術だ。  ヤクザは売るものがない。暴力か。だから暴力団だと警察は指定してくる。  会長は自分たちを任侠という。任侠道。  子供の頃から親しくしているテキ屋のS口さん一家。栄介はS口の伯父貴に懐いていた。  香具師の生き方を引き継ぐ上州風間一家。 その気風(きっぷ)の良さを受け継いでいる風間華子。女にしておくのは惜しい、などと言われ続けてきた。 「華子さんはいい女だなぁ。 早く若と所帯を持ってもらいたい。」  組の者が口を揃えて言うのだった。  いつも栄介のもとに、華子が訪ねてくる。 「家が完成したら,祝言ね。 私、白無垢に綿帽子がいいな。お色直しは赤い打ち掛けで。最後はドレスにするわ。栄介は真っ白なタキシードね。楽しみ!」 (うわぁ、待ってくれぇ! 俺は気持ちが固まっていない。)  子供の頃から栄介を見てきた華子は、栄介が何か悩んでいるのがわかった。 「栄介、なんか悩みがあるの?話、聞こうか?」  兄妹のように育った華子には、わかってもらえるかもしれない。思い切って胸の内を話して見ようか?  まだ、自分でもこの違和感に、明白な自覚はない。  今日も家を建てている現場に来てしまった。 崇さんを見ると胸が苦しくなる。  座敷の工事をしている崇さんを見つけた。 「もう、大分、出来てきました。 今日は奥座敷に書院を設える工事です。  寝室になりますね。」  栄介と崇は思わず顔を見合わせた。 新婚夫婦の寝室。栄介と華子の閨房。  もう結婚は決まっている。 (俺は帰る道を無くしたままだ。)  崇は宙に浮いた自分の気持ちを思った。 栄介ももう逃げ場のない未来を背負っている。    一瞬、見つめ合った。時間が止まった。 顔を引き寄せてくちづけした。

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