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第47話 覚悟
「そこへ直れ!」
栄介が一歩前へ出た瞬間、ひらりと一閃、刀は
栄介の首を切り落とした。
「きゃあー!」
華子の叫び声。
清和会、会長清田征一は居合い切りの達人だった。見事に一閃で息子清田栄介の首を切り落とした。
転がった首級を若頭補佐の今井が拾い上げ、
うやうやしく三宝に乗せた。正気の沙汰ではない。
崇は立ち上がり、会長の手から鬼神丸を取り、己の首に当てた。頸動脈をひとおもいに掻き切るつもりが華子に弾き飛ばされた。
刀身が飛び、二つに折れた。
「それまで、だ。
ほんとうならば、小野田さんの片腕でも貰うところだが、栄介が止めたのか刀身が折れた。
百五十有余年、この鬼神丸国貞は一度も折れた事はない。御一新を生き延びた刀だ。
栄介が,小野田さんを切るな、と言っている。
警察を呼べ。私は出頭する。子殺しだ。
清和会は解散だ。今井が新しく組を立ち上げろ。」
「会長!おやじ!」
座敷は血の海だ。泣き叫ぶ華子を父の風間会長が抱き留めて宥めている。
警察官が雪崩れ込んできた。
「解散だって?」
若が亡くなり親父が持って行かれて、後を仕切るのは片桐の伯父貴にきまった。
今井が代行を務める。
この場にいた人間は全員、事情聴取に引っ張られた。
「清田会長はもう娑婆には戻れないでしょう。
前科もあり長い懲役になる。
生きているうちには出てこれんでしょう。」
周りの人間の口さがない話が千里を駆ける。
関東の極道の勢力図が変わった瞬間だった。
しばらくは、崇は生きる屍(しかばね)だった。愛する人を目の前で実の親に殺されたのだ。
この時期の崇さんのことはヨシさんがよく知っている。
「俺はもう、男も女も抱けなくなった。」
そう言って修行僧のような生活が続いた。
切られずに腕を残してもらって、仕事に没頭した。
地元の寂れようは驚くほどだ。限界集落。
立派な材を使って建てた見事な古民家が朽ち果てている。以前から気になっていた古民家再生の仕事に本腰を入れたい。
栄介と二人で暮らしたかった。風情のある寄せ棟の古民家に惹かれる。
昔の人は木をよく知っている。無駄のない材の使い方。山から切って来ても木は生きている。丁寧な処理をして百年活かす。林業の人々と連携して、材を集める。人間は大自然に生かされているのを実感する。
「小野田さんは生きながら仙人になったようだ。」
古民家再生に力を入れている『こころ不動産』の社長が腕に惚れ込んで崇さんの仕事を応援している。
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