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第8話
「……ゴメン、小鳥遊君」
「……もういいです。安心してください。俺、失恋しても先輩のこと恨んだりなんかしませんから」
「そうじゃなくて!」
「……?」
焦ったように先輩が俺の腕を掴む。
「僕も……僕も、小鳥遊君のこと、好きだよ」
「……」
「……」
「えっ?!」
溢れていた涙が一瞬にして引っ込む。
零れた涙で頬はびしょぬれだが、それは気にしないことにして先輩の顔を穴が開くほど見つめる。
「……でも、あの人……Ωの……さっきの……」
「さっきのは、僕の幼馴染。Ωだけど番にはならないし、婚約者とかそんなんでもない」
そうだったのか。
じゃなくて。
いや、そんなことが聞きたいんじゃなくて。
「先輩、俺のこと好きだったんですか?!」
「……わかるだろ。恋人でもないのに毎日連絡取り合って、電話は切れないようにって、かかってきたらすぐにコールボタン押して……部屋にまで呼んで……。そんなの、普通しないだろ。友達でも普通、そこまでしない」
「……でも、じゃあなんで、二人きりになれるのに、幼馴染なんて呼んだんですか」
「呼んだんじゃなくて勝手に来たんだよ。仲間内でだべってるときに僕が仲いい後輩が部屋に来るって口滑らせて、そしたら見物気分で来やがった。……幼馴染だから、君が僕にふさわしい奴か見定めるために来たのかもしれないけど」
「……」
「……部屋、帰ろう。小鳥遊君」
「……はい」
俺は先輩に連れられて、床に落としていた荷物を拾い、先輩の部屋へ戻る。
「荷物その辺に置いといて」
先輩の言葉に素直に従う。
「はるき、お前もう帰れ」
先輩がΩの女子にそう声をかけた。
はるきと呼ばれたその女子は、ふわふわの髪を肩で跳ねさせながら、ソファの上でアイスを食べている。
「……君が、朱雀と『仲の良い後輩』君?」
「……あのっ、小鳥遊 栄純と申しますっ……!!」
「小鳥遊君ていうんだ。なんでそんなに緊張してんの?」
「あの、あああの、ええと、俺っ……いや、先輩、志波先輩をっ」
「朱雀がどうしたの?」
「志波先輩を、俺にくださいっ」
Ω女子――はるきさんを目の前にした俺は、テンパッてそう口走ると、90度に礼をした。
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
マズった。
何言ってんだ、俺。
何やってんだ、俺。
冷や汗で顔がびっしょりになる。
「……あはははは!」
甘い声が甲高く笑う。
「っく……ふっ……」
先輩も笑いをこらえきれないかのようにお腹を押さえている。
俺は冷や汗ダラダラのまま、顔が紅潮するのを感じながら体を起こす。
穴があるなら入りたい。
「『仲良い』って、ほんとのほんとに『仲が良い』後輩だったんだ」
「……そうだよ。だからお前、今日はもう帰れ。邪魔」
先輩がはるきさんを追い立てようとソファに近付く。
そんな先輩をひらりとかわしたはるきさんは、俺の方を見て軽やかに笑った。
「いいね。漢気って、やつ?思い切りが良いんだね」
「……すみません、変なこと言って……」
「いいよ。君が変な奴だったら、いつでも仲を引き裂きに来るけど」
「はるき。余計なこと言うな」
「はいはい、邪魔者は退散しますよ。……てことで、覚えといてね、小鳥遊君。朱雀に変な事したら、私みたいなのが朱雀の周りには結構いっぱいいるから。君が酷い目に合うよ」
「はっ、はい、肝に銘じておきます……!」
「はるき!!」
「はいはい。じゃーね。アイス御馳走様~」
はるきさんはそう言うと玄関に向かい、トントンと靴を履くと部屋を出て行ってしまった。
「……小鳥遊君」
「……ハイ、先輩」
「君、僕のことが欲しかったの?」
「もっ、もちろんです!!」
「じゃあ、……あっ、でも君がはるきに怒られちゃうかな」
「? どういうことですか」
「僕と変なこと、する?……それとも麻雀する?」
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