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この檻に閉じ込めて

「お前は頭がおかしい」  ずっとそう言われながら生きてきた。  幼い時、生き物が好きだった。  モゾモゾと動く姿が可愛くて、いろんな生き物を飼いたがった。  しかし俺の可愛がり方は異常らしく、そのうちに両親も祖父母も友人達も皆俺の事を気味悪がった。  どんなに可愛いと思った生き物でも、体の仕組みがどうなっているのか気になると解剖せずにはいられずバラして殺してしまっていたのだった。  今ならそれが動物虐待の類だったと分かるが、当時の俺にそれを叱ってくれる大人はいなかった。  成長するにつれて少ないながらもそんな俺を受け入れてくれ、間違いを注意し正してくれるような良い友人も出来た。  それでも、子供の時に感じた一人ぼっちのあの寂しさは、ずっと俺の心の中に影を落としていた。  高校卒業と同時に家を出て国の制度等を駆使して自力でそこそこ良い大学を卒業した俺は、在学中懇意にしてくれた大学教授の知人からのスカウトで、特殊な研究所で働く事になった。  そこでは世界でも少ない『不死者』を使った新薬の開発や不老不死の研究をしており、治験とは名ばかりの人体実験で明らかに表に出てはいけない研究ばかりなのだと理解した。  そこで働く事に、特に異存はなかった。  しかしそこでも、俺は周りの研究員から微妙に距離を取られた。  どうやら俺の異常性は、今でも治っていないらしい。  最初は優しかったのに、よそよそしくなっていく同僚や上司、俺を怖がる後輩。  非人道的な研究に関して嫌悪を示さないような連中ばかりの世界でも、俺は駄目なのかとなんとも言えない胸のモヤモヤを抱えていた。  そんなある日、研究所のお偉方に呼び出された。  特にミスも無く、研究を一々褒められるような職場でもない。  正直気が重かったが、渋々応接室に顔を出す事にする。  応接室に入ると、役員から一人の男を紹介された。  役員の話を要約すると、被験者の一人で再生能力が落ちたから俺にくれてやるそうだ。  身寄りもなく帰るところも無いから、好きにしろと。  ……何故だ??  頭が疑問符でいっぱいになりながらも、その被験者を見る。  長身だが細身の、俺より少し年上だろう男は俺と目が合うとビクッと肩を震わせた。 「え、えっと、伏見利与那です…。よろしくお願いしま……す?」  そう自己紹介した彼は、目をキョロキョロさせながら所在なさげにしている。  分かる分かる。俺も今、戸惑ってるからな。 「佐渡誠実だ、よろしく」  とりあえずと手を差し出すと、相手も不安そうにしながらも恐る恐る手を差し出して俺の手を握り返した。  こうして何がなんだか分からないまま、利与那がうちに来る事になった。 「先生〜! 今日は先生の好きなポトフにしましたよ! 温まりますよ〜!」  そう言いながら得意気に鍋ごと食卓に運んでくる利与那を、微笑ましく見守る。  うちに来た当初の利与那は、本当に何も出来なかった。  何も出来なさ過ぎて、今俺が追い出したら絶対に餓死するレベルで何も出来なかった。  物心ついてすぐ、不死者である事で親に研究所に売られたらしい。  ネグレクト気味だったうちの親も大概だが、これは酷い。  仕方がないので、俺はいろんな事を1から利与那に教えた。  利与那は地頭は良いらしく、教えた事をどんどん覚えていく。  俺も楽しくなってきて、どんどんいろんな事を教えた。  ある日、子供の頃感じたあの衝動がどうしても抑えられず、遊びと称して彼に酷い事をしてしまった時に(あぁ、この為にコイツを俺にくれたんだな)と理解してしまった。  自分のやった事に呆然としていた俺を、利与那は血まみれの体で優しく抱きしめてくれた。  あの時から、ずっと俺は自分の欲を利与那にぶつけている。  許される事じゃないのに、利与那はどんな時でも俺と目が合うといつも微笑んでくれる。  その顔を見ると泣きそうになる。  きっと、俺に捨てられないように我慢しているんだろうと。  でも、俺は知ってしまった。  俺の異常性、欲望、本当の俺の全部を受け入れてもらえる喜び。  家に帰ると「おかえりなさい!」と誰かに出迎えてもらえる幸せ。  つらい時、寂しい時、ギュッと抱きしめ合った時の温かさ。  だから俺は、もう彼を自由にしてあげられない。  この偽りの幸せが、ずっと続きますように。

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