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第2話

彼からの連絡はすぐだった。 今度は電報ではなく、件名に指定の時間だけが入っていて本文は白紙の本当にシンプルなメールが来ていた。 日付なども入っていないがもしかしたら急いでいたのかもしれないと思い、私はすぐに先日彼と会った場所に向かう。 「えっ!」 指定の時間にはまだ早いが車を降りて私は珍しく小走りで目的地に向かった。 遠くにスーツ姿の彼が大きなキャリーケースの横に立っているのが見えて、少しイライラとしているのか時計をチラチラと見ている様子だった。 小走りで向かう私の姿が目に入ったのかパチリと目が合った。 アイコンタクトで軽く目礼だけすると、キャリーケースを置いて私と反対側に走って行く。 驚いた私は一瞬走るのを止めて立ち止まってしまった。 「これをどうしろって言うんだよ…。しかも、もう1人は居ないし」 もう彼が何をしたいのか分からないが、とりあえずキャリーケースのもとに諦めてゆっくりと近づく。 最近運動不足だったからか少し息があがってしまった。 息を整えつつキャリーケースに手を置くと、自分が急いでいたのと距離があったからとで気が付かなかったが思いの外キャリーケースが大きいと感じる。 もう1人の彼の荷物でも入っているのかもしれないのに、肝心の人物が居ないので私はどうすればいいのか分からずため息と共に愚痴の様な言葉が漏れてしまった。 キャリーケースを置いていった張本人は特に何も言わずに去ってしまったので、とりあえずこれは持って帰れということなのだろう。 「おっも!」 キャリーケースを動かそうと持ち手に手をかけ引っ張るとこれまた予想外に重量がある。 一瞬驚いたものの運べない重さではないなとキャリーケースを動かすと、当然タイヤがゴロゴロと地面と擦れている音を立てていた。 私は気にせず車まで運び、トランクルームへとケースを押し込んだ。 運転席に座ってふぅと大きく息を吐く。 なんだかトランクルームへ押し込んだキャリーケースの事が気になってしまって、またしても慌てて家に帰ることになってしまった。 「よいしょっと…」 なんとかキャリーケースを車から自分の部屋まで運んだところでついつい言葉が漏れた。 何が入っていればこんなに重いのだろうと思いながらも、ついでに肩に手を当ててぐるぐると腕を回す。 本格的に運動不足だなと自覚できたところで、リビングの入り口あたりでキャリーケースをそっと横に倒した。 大きく息を吸って息を整えると、変な緊張感を感じながらファスナーを左右に開く。 ジジジッとファスナーのスライダーが擦れる音がやけに大きく聞こえる。 「よ、よしっ!」 一応全てファスナーを開けたが、中々本体を開ける勇気が出ない。 普段の自分ならこんなこと無いのにと自己分析をしてしまう。 意を決してキャリーケースの半分を開ける。 中に入っていた“モノ”に私は座っているのに倒れそうな位の衝撃を受けた。 「いや。了承したのは自分だけど…本当に…これはどうしろっていうんだよ」 キャリーケースの中には待ち合わせ場所に居なかった方の“彼”が入っていた。 名前は佐藤 美波(さとう みなみ)。 ある日何の前触れもなく置き手紙を置いて突如失踪し、保健室によく来ていたという理由から私も失踪について何か知らないかと警察に事情聴取を受けた。 幼少期に1度誘拐され、誘拐された数ヵ月後に隣町のゴミ捨て場にて無惨な姿で投棄されているところをゴミ出しに来た近所の住民が発見したと事情聴取を受けた後に新聞記事になっているのを読んだ。 発見当時、命に別状はなく発見後すぐに近隣の病院へと運ばれて治療を受けていると報道されていたとうっすらとだが記憶にあった。 誘拐された時に、祖母と留守番をしていたらしく何者かによって祖母が殺されたうえでの犯行だったので大々的に全国ニュースにもなった筈だ。 しかし発見のニュースは誘拐された時より盛り上りを見せず、すぐに別の話題に移っていったのだろうあまり鮮明な記憶がない。 「とりあえず身体検査からだな」 うっすらと感じる頭痛は無視して、まずはこの子の身体の状態を確認する事が最優先だと頭を切り替えて観察を始めた。 一応バスローブの様な物は身に纏ってはいるが、情事の後なのか顔が紅潮しているし精液やら体液の独特の臭いがする。 まずは風呂に入れるのが先だろうか。 足を抱える様な体勢でキャリーケースへ入れられているので抱き上げる為に一先ず服が汚れない様にしなくてはと思い立つ。 確か研修か何かで貰った汚物処理キットがあった筈だとバスルームに向かう。 「えっと…お!あったあった」 洗面台の下の収納を覗いてみると、一番奥に汚物処理キットとデカデカと書かれた箱が入っている。 手を伸ばしてそれを取ると箱を開けて長袖のガウンに手を通す。 薄手のビニール袋みたいな素材のガウンに研修医時代の事を思い出して懐かしくなる。 感染症の検体採取の時にこんなガウンを着て実習したなと思いながら腰の辺りで紐状になっていたガウンの端を結ぶ。 ついでに一緒に入っていた手袋も二重につけた。 「ついでに風呂もはってと…」 壁についている給湯器のスイッチを押してからリビングに戻った。 キャリーケースの中の彼は気絶しているのか、眠らせられたのか全く起きる気配もない。 一応口許に耳を近づけ呼吸音を聞く。 すぅすぅと小さな呼吸音が聞こえ、手首で脈をはかろうと腕を持ち上げるとやはり病的に白く細くなってしまっている。 監禁されていると日光に当たる時間が極端に減るため肌は不自然なほど白くなり、運動もしなくなるので筋力が落ちてしまう。 折り曲げている足も細く歩くのも困難かもしれないと私は覚悟を決める。 一応抱き上げる為に横向きの身体を起こそうと膝の下に腕を差し込み背中にも腕を差し込んで自分の身体に引き寄せるように力を入れた。 近くで見る顔には一応傷や痣などはないかを確認する。 やはり頬の肉は落ち青年の顔にはなっているが、やはりやつれた印象の方が強い。 「ちょっとごめんよ…」 正面を向かせたところで一旦手を離しバスローブ的な物の前を開く。 お腹にも痣はなかったが胸には小さなうっ血痕やら噛み痕やらがあるし、確実に引き伸ばされたであろう乳首にはピアスがついていた。 乳首とは対照的にペニスも睾丸も小さく、なによりホルモンのせいだろうが身体も肋骨など骨が浮き出ているところもあるくせに胸やら尻やらが膨らんでいるので身体的特徴としてはパッと見の印象だけでもメス化しているのが良く分かる。 身体を少し持ち上げてキャリーケースから出して床に寝かせた。 行儀は悪いが、空になったキャリーケースは足で奥に押しやる。 少し足を開かせて足の間を覗くと、色素が沈着した縦にわれた孔がひくひくと収縮しているのが見えた。 気合いを入れて、もう一度彼を持ち上げてバスルームに向かう。 少しの距離なのに本当に脱力しているからか歩いていると腕がだらりと下に垂れる。 掴まれてついたのであろう手の形の内出血ができているし、彼の“ご主人様”は何か薬でも使っていたのか彼の腕は薬物中毒者の腕の様に注射器の繰り返しの使用や皮膚の掻きむしりによる特有の痕跡がある。 薬物中毒者の腕に見られる主な特徴注射痕はトラックマークと呼ばれ、静脈注射を繰り返すことで腕の血管に沿って針の跡や色素沈着や内出血の痕が残る。 ひっかき傷や掻きむしり痕は覚醒剤などの影響による幻覚や痒みから、腕を激しく掻きむしった多数の傷が見られることがあると何かの論文で読んだことがあった。 その特徴と合致していて何度目かの大きなため息がもれる。 「あー。やっぱりか…」 脱衣場でバスローブ的な物を床に落として、私はビニールのガウンを着たまま浴室に入り彼をお湯が張られた浴槽にゆっくりと沈めた。 改めて腕を見ると素人が針を刺して薬を使ったのが良く分かる。 所々に内出血や内出血が治りかけて黄色くなっている部分が点在している。 腰の辺りにも掴まれてできたのであろう手形がくっきりとついていた。 髪の毛は所々短くなっていて、彼の“ご主人様”があまり器用ではない事が分かる。 「お湯かけるよー」 意識が戻らないが、一応声をかけてから身体を起こして頭からお湯をかける。 鼻に入らない様に生え際に手を添えて浴槽から湯を汲み上げて頭を濡らす。 シャンプーをつけて頭を擦ると、予想に反して以外にも泡がたった。 泡を洗い流すと浴槽の中が泡だらけになる。 お湯を抜きながら身体を洗うついでにもう一度細かく身体的検査をした。 背中には根性焼きなどの火傷の痕はなくて少し安心する。 首には帯状の痕が残っているので首輪などをされていたのかもしれない。 そう言えばもう一人の彼も首元をやたら気にしていた事を思い出す。 「君も治療には時間がかかりそうだね」 一応トリートメントまで終わって頭にタオルを巻く。 少し足を持ち上げて孔を触るとゴボゴボと音を立てて精液が逆流してくるので、シャワーをかけて洗い流す。 精液が出てこなくなった頃には私はすっかり汗だくになっていた。 ビニール性のガウンとゴムの手袋を外して浴槽の端にとりあえず置いて、彼の身体にバスタオルを巻いてもう一度抱き上げる。 これからどうするかなぁと答えが出ない悩みを抱えつつまたリビングに戻るのだった。

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