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第7話

画面からは犬の様なハッ、ハッという短く忙しない息遣いが聞こえている。 誉の病院に戻り、何故だか彼から渡されたディスクを1人で見るのがこわくて無理やり誉のデスクトップを借りてDVDの内容を見始めた。 横に居る誉は私が言われたことを知らないので怪訝そうな顔をしているが一緒に映像を見てくれるらしい。 『足上げて、膝は曲げちゃだめだよ?お尻は開いてみせてね』 画面の中には幼い男の子がカメラを構えている人物に指示され足を垂直にあげ、身体を折り曲げてお尻に手を添えて左右に広げて見せている。 古い映像だからか画質が悪く、少し薄暗い。 しかし、そんなあまり良くない画質でも男の子のペニスも乳首も身体に見合わず異様に肥大化していて映像の異様さが際立つ。 『本当におっきいの入るようになったね。ここに来た時は痛いってずっと泣いてたのに』 撮影者の声がとても満足そうに聞こえ、画角の端からゴツゴツとした太い指がフレームインしてくる。 太い指が玩具を咥えこんで皺が完全にのびきってしまっている孔の縁をつっと撫でると、男の子がふるりと震えた。 『じゃあ、湊くんいつものやつ言ってみせて』 撮影者が男の子の名前を呼んだ瞬間に、私は息を飲んだ。 ちらりと誉の方を見るが、そもそも私が湊の名前を誉に伝えていない上に状況を分かっていないので眉を寄せてただ映像に対しての嫌悪感の様なものしか感じられなかった。 映像は更に子供の頃の湊に近付いていき、顔がハッキリと映し出される。 目元の泣き黒子がこの頃からあるのだと内容と関係のない事を考えてしまう。 映像の中の湊の喉がごくんと上下に動いて、意を決した様に大きく息を吸い込んでカメラ目線になった。 『ぼくはせっ、セックスしてもらう為に…おじさんにいっぱいケツいじめしてもらってます。ケツ…ハメはまだだけど、おじさんにパ、パコッてもらってたくさん中出しイキしたいです』 こちらに目線を向けながら緊張しているのか尻の肉を強く掴んで指の先が白くなっているのを舐めるように映像が流れていく。 言わされた言葉の意味は分かっていなくても格好が恥ずかしいのか湊の顔が赤く染まっている。 『よくできました』 『え!ちがっ!お尻じゃなっ!!』 撮影者が己咲と湊の“ご主人様”なのだろう。 ヴヴヴヴッというくぐもったモーター音が大きくなると、湊の足が更に上にピンっとのびる。 『ケツいじめ好きなんでしょ?』 『お、おじ…おじさんが…いわせてるのに!!』 バイブの端を掴んだ手がぎゅぽぎゅぽと空気を含んだ音をたてながらバイブを大きく抜き差しする。 絶頂が近いのか湊の首が大きく後ろに反って身体がぶるぶると震えだす。 それを見たところで私は停止ボタンを押す。 これ以上動画を見るのに耐えられなくなってしまったのだ。 「これ何だ?何で俺コレ見せられたんだ?」 「ごめんなさい。嫌な予感がしてどうしても…1人で見る勇気ががなくて…」 「まぁ、こんな内容とは思わないよな」 私がはぁと大きくため息をついて椅子に項垂れていると、珍しく誉がキャスター付の椅子をスライドさせて更に近付いてきた。 口では責める様に疑問をぶつけてくるものの、私の反応に仕方がないというように肩を叩いてくれた。 私がちらりと湊の方を見ると、誉もそちら側に顔を向ける。 本当の事を言おうかどうしようかと悩むが、一緒に映像を見てしまったのだから肩の荷を分散させようではないか。  道連れというやつだ。 「実は…そこに居る子の昔の映像を貰いまして」 「あー。うん?」 「それがこの映像でして…」 「は?先に言えよ!」 「いたっ!先に言ったら一緒に見てくれないでしょう!」 「当たり前だろ!何で面倒な事に自分から首を突っ込むと思うんだよ!」 おずおずを話を始めると、最初は意味が分からず首を傾げた誉だったが次の言葉にがたりと椅子から立ち上がった。 立ち上がった動きのまま誉に怒鳴られて拳が飛んできた。 そもそも言わなかった私も悪いので叩かれても仕方がないがもう少し優しくしてほしい。 「流石に本人も寝ているし、お前も居ないから採血も控えたのに!早く外注で献体回すぞ」 「そうなんですけど…」 「何がそうなんですけどだよ!渋ってないで診察するぞ」 「そんな勢い良くめくらなくても!」 私が渋っているとでも思ったのだろう。 怒鳴りながら湊の上にかかっているブランケットを剥ぎ取る。 湊が驚いて目を覚まし、パニックで暴れて点滴を外してしまう可能性があるので焦って誉を止めに入った。 幸いな事に湊は目を覚まさなかったが、病院に来てから湊の上のブランケットは誉の前では全て取り去ってはいない。 それは湊の下半身には何も身に着けていないからだ。 湊の姿を見て誉の動きが止まる。 「お前これから良くルートなんて取ったな」 色々と言いたい事はあったのだろうが、誉は湊の骨と皮だけに近い足を見てから点滴の刺さっていない方の腕を持ち上げた。 陽にあまり当たっていなかったのか肌は白いのに、体調が悪いせいで血管が見えているのに血管が逃げるのだ。 あと、素人には若い方が採血しやすいと勘違いされるが若ければ若いほど皮膚が薄いのに柔らかいせいで針への反発が強い。 それに複数の注射痕が腕にあるので、確かに探しにくくはあるだろう。 スポーツウェアの前開きのファスナーをおろしてガバリと開くと胸が露になる。 誉は肥大化させられたせいで乳輪が盛り上がり乳首がのび、その乳首にピアスが着いていようが何事も無いように聴診器を胸に当て呼吸音を聞く。 「呼吸音は異常ないな」 「点滴中なので血液検査は後日にしませんか?」 「それもそうだな。どうせ正確な数値も出ないだろ。薬物の検査キットを取り寄せて寄せておくからちゃんと連れて来いよ」 「心強いお言葉ありがとうございます」 私が仰々しく頭を下げると、誉は仕方ないと言うように息を吐いた。 目の前の湊を見れば強くも言えないのかもしれない。 何やかんや言いつつ湊の治療に協力してくれるらしく私がニコニコと笑うとまた嫌そうな顔をされてしまった。 こちらを無視して入口付近をちらりと見たので、何を見ているのだろうとそちらを見ると、先程貰ってきたバッグが置いてある事を思い出す。 DVDのディスクにばかり気を取られていたが、今湊に着せる物が何かあるかもしれない。 いそいそとバッグを取りに行き、中身を近くにあった机の上に広げようとファスナーを開けた。 「どうした?」 「いえ…下着が入っていましたよ。着せてあげないと可哀想ですね」 バッグを開けたところで動きが止まってしまって誉に不審に思われてしまった。 上に乗っていたボクサータイプの下着を持ち上げてすぐにファスナーをしめる。 バッグの中にはスカートやらブラウスか入っていて、どれもフリルやレース等が多くパッと見ただけだがシンプルな物は上からでは分からなかった。 この服たちが十中八九“ご主人様”の趣味で買われた服なのだろうが湊本人の趣味なのか、“ご主人様”の趣味なのかは今のところ分からない。 「申し訳ありませんが、病院着も貸してもらえまそんか?」 「そのバッグには目ぼしい物は入って居なかったのか?」 「ええ…普段着ばかりでゆったりしたものは無さそうでした」 「ふーん」 全くバッグの中身を見もしなかった私の嘘に誉はそれ以上聞いてくる事もなく病院着を用意してくれた。 流石にバッグの中身は病人には着せられる代物ではなかったし、何より服を吟味する精神的余裕が先程の映像を見たせいで無かったのも大きい。 バッグの中身を見るくらいなら病院着を借りてしまった方が早いと思ってしまったのだ。 服も揃えねばならないなと湊に下着を着せて病院着の下を履かせながら思った。 「3日前ですが、腹部の触診はしました。精密検査しないことには正確な事は分かりませんが触診では腹部に腫瘍などの所見は見当たりませんでした」 「色々聞きたい事はあるが、まずは本人が回復してからだな」 「私もここまで酷いとは思いませんでしたよ。最初にも言いましたが食事も口にしなかったので」 「まぁお前に言うのは癪だが、何かあればすぐに連れてこいよ。専門医ではないが、一応ここには設備もあるしこの身体じゃ知らない病院に連れて行けば最悪警察案件だろうな」 「そうなるでしょうね」 間もなく点滴が終わりそうなのを確認しながら、私はまた大きなため息が出た。 誉はデスクトップの前に座って、DVDを取り出した後にカタカタと何かを打ち込みはじめる。 「一応カルテ作っておいてやるわ。この子の名前は?」 「佐藤美波…いえ。今は吉高湊で登録しておいてください」 誉は電子カルテの画面を開いて、名前を聞いて来たので思わず変更後の名前を言ってしまったが思い直して以前の名前を伝えた。 誉の手が一瞬止まったが、すぐに入力を再開してカルテに所見等を打ち込んでいく。 今は名前の件に触れて来ないでくれたのがとてもありがたい。 疲れからか、心労からなのか私も頭痛がしてきた。 頭痛薬でも処方してもらおうかと考えながらぼんやりと誉の手元をじっと見ていた。

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