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EP13.完成した鎖【R18】
大学が夏休みに入り、羽瑠矢はそれなりに忙しい日々を送っていた。昼間は短期インターンやアルバイトに精を出し、夜は友人に誘われるまま繁華街へと繰り出す。
一方の智紘は、実習や研究室へ顔を出す以外、週のほとんどを羽瑠矢の部屋で過ごしていた。常にPCを開き、何やら難解な画面と格闘している。時折、酷く冷徹で真剣な声で電話をかけているが、その内容は羽瑠矢には理解できなかったし、あえて踏み込む気もなかった。
ただ、夜、羽瑠矢が帰宅した瞬間にそれまでの空気は一変する。
待ち構えていたかのような智紘の襲撃。シャワーを浴びる猶予すら与えず、服を剥き、強引に快感を引き摺り出し、激しく熱烈に抱き潰される。
回数を重ねるたび、智紘の指先は驚くほど巧みになっていった。持ち前の優秀な頭脳で羽瑠矢の身体を「研究・観察」し、データとして蓄積していく。
羽瑠矢は、智紘に抱かれる陶酔に身を委ねながらも、その完璧すぎる手つきに、拭いきれない僅かな違和感を感じずにはいられなかった。
そんなある日、羽瑠矢が汗だくで帰宅すると、いつもそこにいるはずの智紘の姿がなかった。
日付が変わっても、翌日になっても、彼は現れない。
羽瑠矢はあえて連絡を取らなかった。智紘の行動にはいつだって必ず意味がある。
だから羽瑠矢は、いつも通り部屋を冷やし、ベッドを整え、その腕の中に「彼」が戻ってくるのをただ静かに待った。
智紘は、予想よりも早く戻ってきた。いつものように最小限の荷物と、どこか吹っ切れたような飄々とした顔を携えて。
羽瑠矢が差し出した冷えた缶チューハイを、智紘はちびちびと口にする。隣に座り、肩を寄せ合う。智紘からは、フレッシュな草花の香水と、彼自身の僅かな汗の匂いが混じり合って漂っていた。
羽瑠矢は回りくどい前置きを捨て、核心を突いた。
「で、どうしたの」
智紘は視線だけで羽瑠矢を捉え、他人事のように告げた。
「家を出てきた」
驚きはなかった。予感はあった。
「なに、家出少年?」
「家出っていうか……。もう、生涯あの家に戻ることはない」
智紘は、夕飯の献立でも話すような淡々とした口調で続けた。
「結婚しろって言われたんだけど、断固拒否したんだ。そうしたら、祖父も母親も大騒ぎして。……あの人たち、俺に初めて反抗されたから」
笑えるだろ、とつまらなそうに唇を歪める智紘。
「なんだかんだあって、まあ、勘当……みたいな感じになった」
言葉の穴を埋めるように、羽瑠矢は全てを理解した。
この男は、羽瑠矢を「選ぶ」ために、持っていた全てを捨ててきたのだ。
「で、家出少年くん。行くあてはあんの?」
揶揄うような問いに、智紘もつられて微かに笑った。
「あてはいくらでもあるけど……おまえが俺に居て欲しそうな顔してるから、ここに居てあげるよ。俺を羽瑠矢のヒモにして」
その言葉が、羽瑠矢のツボを正確に撃ち抜いた。
「はは! おまえみたいな家事一つできないヒモ、いらねー」
「馬鹿だな。ヒモの価値は家事能力じゃなくて、セックスにあるんだよ」
智紘が柔らかく唇を重ねる。酒精の香りと冷たい感触が、羽瑠矢の心の奥底にある泉をさざめかせた。
整えられたベッドの上。服を脱ぎ捨て、肌を重ねる。
智紘の動きは、相変わらず無駄がない。熟知した羽瑠矢の性感帯を正確に捉え、快感を強引に引き摺り出そうとする。
けれど、羽瑠矢はふと動きを止め、智紘の頬を両手で包み込んだ。
余裕たっぷりに、独占欲を剥き出しにする智紘の瞳。だが、その奥の奥に、放り出されて途方に暮れる「迷子の仔犬」が透けて見えた。
羽瑠矢が優しくキスを落とすと、智紘は意外そうに目を見開いた。
「羽瑠矢……なに」
「おまえさ、いつも通りを装っても、俺には隠せないんだって。いい加減、諦めろよ」
羽瑠矢は智紘の肩を押し、ゆっくりと仰向けに組み伏せた。
見上げる智紘の顔は、赤ん坊のように無垢で、危うい。羽瑠矢は、唇が触れる寸前の距離まで顔を寄せ、低く囁いた。
「智紘。……わかってるんだろ。何を言うべきか」
言えよ、と耳元で命じると、智紘の瞳がさっと濡れた。
助けを求めるような視線。だが、羽瑠矢は逃がさない。彼が心の底にある本音を吐き出すのを、慈悲深く待った。
「だ、抱きしめて……。お願い、全部……忘れさせて」
か細い祈りが漏れた瞬間、深い口付けでその声を塞いだ。
智紘の身体の弱いところを揉みほぐし、粟立つ背を撫で上げ、兆した芯を宥める。せっかちな智紘が「早くしろ」と急かすたび、羽瑠矢は敏感な肌をきつく吸い上げて黙らせた。
たっぷり時間をかけ、智紘の内側を柔らかく溶かし尽くす。
見下ろす智紘の眦には、耐えきれない涙が滲んでいた。羽瑠矢は、力の入った彼の顎に指を添え、無理やり唇を割って親指を滑り込ませた。
その顔に浮かぶのは、聖母のような、残酷なまでに美しい慈愛の笑み。
「智紘。……声、出せよ」
目を見開いた瞬間、硬く熱い塊が、智紘の聖域を容赦なく侵略した。
「ああっ……!」
部屋に響き渡る、剥き出しの声。
羽瑠矢の動きは、甘美な前戯とは対照的に、一切の手加減がなかった。
智紘は、胎内の敏感な場所を的確な角度で抉り抜かれ、全身に汗を滲ませて早々に絶頂を迎えた。だが、羽瑠矢は解放を許さない。脱力した智紘を抱き込み、口腔の粘膜を啜り合いながら、ずんずんとその奥をこねくり回す。智紘の悲鳴は、全て羽瑠矢の口の中に飲み込まれて消えた。
最後は獣のような衝動のままに腰を振り、智紘の最奥へ自らの熱を叩き込んだ。
しばらく、荒い息だけが部屋を満たしていた。
指先一つ動かせない智紘の頭を、羽瑠矢がそっと引き寄せる。空気に溶け出しそうなほど、柔らかな声だった。
「智紘。俺は、もうとっくにおまえのものだよ。……だから、泣くな」
言われて初めて、智紘は自分が涙を流し続けていることに気づいた。
(……本当に、この男は)
最後には必ず、自分が一番欲しかった言葉をくれる。
羽瑠矢は智紘の涙を唇で吸い上げ、もう一度、壊れ物を扱うように彼を抱きしめた。
――ああ。もう、絶対に、離れられない。
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