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小話2 ネオン街の通貨
羽瑠矢は、夜の街に遊びに行って金を出したことがほとんどない。
それは隣にいる智紘も同様だろう。彼らの容姿と、そこから放たれる特有の「毒」を含んだ色香は、それ自体が繁華街における最強の通貨だった。
ある夜、二人は空腹を満たすべく、ネオンの海へと繰り出した。適当に目に入った、威勢の良い暖簾のかかった居酒屋に滑り込む。注文を急かす腹の虫に従い、刺身の盛り合わせから揚げ物、趣向を凝らした創作料理まで、次々とテーブルに並べさせた。
互いの近況をだべり、冷えた酒を煽る、至福の時間。あっという間にテーブルの上の皿は空になった。そろそろ店を出ようかと腰を浮かせかけた時、手洗いから戻ってきた智紘が、羽瑠矢の耳元で密やかに、けれどどこか楽しげに囁いた。
「ここ、キャッシュオンリーだわ」
羽瑠矢は眉を寄せ、自分のポケットを探る。そこにあるのはスマートフォンと、数枚のカードのみ。智紘の方も推して知るべし、といった様子で肩を竦めてみせた。
二人は阿吽の呼吸で視線を交わし、同時に店内へ「獲物」を探るべく目を巡らせた。
少し離れたボックス席に、華やかな女子数人のグループ。店に入った瞬間から、彼女たちの熱い視線が自分たちを射抜いていたことには、とうに気づいている。
羽瑠矢は、その中の一人と不意に目を合わせ、極上の、とろけるような微笑を贈った。
途端、女子たちの間でひそひそと作戦会議が始まる。やがて、グループの中でも一際目を引く一人が、期待に頬を染めて近づいてきた。
「あの、もし良かったら……一緒に飲みませんか?」
羽瑠矢と智紘は、これ以上ないほど優しく、そして「偶然の出会い」を喜ぶ風を装って、「もちろん」と笑った。
女子たちと合流し、送られる秋波を躱しながら安酒を喉に流し込む。一軒目の会計がどうなったかなど、二人の意識からは早々に霧散した。
二軒目、三軒目と、流れるままに夜を渡り歩く。気づけば彼らは、爆音が地響きを立てるクラブのVIP席に深く腰を下ろしていた。周囲には、羽瑠矢たちの気を引こうと躍起になる薄着の女たちが侍り、最高級のシャンパンが次々と運び込まれる。
智紘は羽瑠矢の肩に頭を預け、遠慮なく高価な琥珀色の液体を喉に滑らせていた。モデルを自称する女が智紘にすり寄り、あからさまな媚びを売るが、彼はそれを虫けらでも払うかのように冷淡にあしらう。だが、その粗雑な扱いさえも彼女たちには「ご褒美」であるらしく、その場には歓喜に近い悲鳴が上がった。
智紘が満足そうなら、それでいい。羽瑠矢は、自分たちの不遜さを棚に上げ、心地よい酩酊に身を任せた。
フロアの音楽が、重低音の効いた心臓を揺さぶるリズムへと変わる。女たちがフロアへと二人を誘い、羽瑠矢は智紘の筋張った腕を取って笑いかけた。
「智紘、踊ろう」
その晩、二人は酒と音の波に心ゆくまで酔いしれた。
ようやく自宅の玄関に辿り着いた時、空は白み、眩しい朝日が容赦なく二人を照らしていた。結局、この一晩の遊びで彼らの懐が消費されることはなかった。
「うう、やばい。飲みすぎた……」
ベッドにダイブし、羽瑠矢が泥のように呻く。だが、その上に智紘が容赦なく覆いかぶさってきた。
鼻を突く酒臭いキス。歪む視界の中で、羽瑠矢は己の身に迫る危機を察知し、戦々恐々とした。
「おまえ、なんでそんなに元気なんだよ」
「だって、羽瑠矢が臭いんだもん」
だから脱いで、と智紘が囁く。その手は既に羽瑠矢の服を無造作に剥ぎ取っていた。
酩酊し、指一本動かす気力のない羽瑠矢には、抵抗する術など残されていない。使い物にならない股間を執拗に弄られ、身体を揺さぶられ、胃の中のものが逆流しそうになるほどの激しい情愛を、朝日の中で延々と叩き込まれ続けたのだった。
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