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今日は樹の卒業祝いと同居一年の祝いを兼ねている。
この一年で僕も料理をするようになったものの、先に一人暮らしをしていた樹のほうがレパートリーも多く上手だった。お祝いの料理といってもそうたいしたものはできず、今日のメニューは昨日から煮込んだビーフシチュー、サラダ、バゲットのカナッペだ。ケーキはさすがに作れないので、近くのちょっと美味しいと評判のパティスリーで購入してきた。
ピンポーン。
インターフォンが鳴った。
「ん? いっくん……じゃないよね? 鍵持っているはずだもんね」
(誰だろう)
モニターを確認せずにいきなりドアを開ける。この癖がなかなか直らず、樹にも「危ないから」とよく怒られている。
ドアを開けると――目の前が真っ赤になった。
「ええーっ」
一瞬どういう状況なのか飲み込めずにいると、
「相手を確かめずに開けちゃ駄目だって言ってるだろ」
赤いものの向こうから樹の声が聞こえた。
「いっくん!」
ふぁさっと目の前の赤が動いて僕の鼻を擽る。瑞々しい花のような香りがした。
「いっくん、これっ」
「とにかく中に入れて」
ドアの内と外で話していたのだった。僕は慌てて後ろに下がる。樹が中に入ってドアを閉めた。
それは――何本あるのかわからない真っ赤な薔薇の花束だった。
胸元辺りまで上げていた花束を少し下げ気味にすると、やっと樹の顔が出てきた。
「いっくん、これどうしたのっ? 誰かにお祝いで貰った?!」
突然現れた豪華な薔薇の花束をどう理解したらいいのだろう。
大学では後輩から大学院のお姉さま方まで幅広くモテていた樹だ。裕福な家庭のお嬢さまもいて、そんな女の人にでも告白されたのではないかとヤキモキする。
「ばーか、そんなわけないだろ。これはナナ、俺からお前にだ」
「え? なんで僕に。卒業したのいっくんだよね?」
ますますわけがわからない。
「百八本の赤い薔薇」
樹はぼそっと言った。どこか照れくさそうな顔をしている。
(百八本の赤い薔薇……)
樹は僕の高校の卒業式の朝、可愛らしい花束を持ってお祝いを言ってくれた。その時は赤い薔薇ではなかったけど、「気持ちは百八本の赤い薔薇だ」とぶつぶつ言っていた。なんのことかわからずにいたけれど一年近く経ってからそれが花言葉だということを知った。
それから僕のアニバーサリーには必ず花を贈ってくれてそれにはすべて意味があり、樹の気持ちが込められていた。
(まぁ、それも全部あとからわかったことなんだけどね)
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