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好きっていう練習は、もう終わった。

俺、宮田由衣は普通の大学三年生である。真面目か不真面目かで言ったら真面目に分類され、特段優秀な成績というわけでもなく、ごく普通な真面目な大学生である。まぁ人よりちょっと感情を言葉にするのが苦手で、不器用な面はあると思う。 そんな俺は同じ学科の早崎蓮、に元気に片想いをしている。 早崎は俺よりもずっと社交的で、人の気持ちに気が付くのが得意で、いつも何かと周りを気にかけている。 もしかすると、俺のこの気持ちに関しても気がついているのかもしれない。 俺と早崎は付き合っているわけでは全くないが、普通の友人関係にしては少し距離が近いような気もしている。 昼ご飯は大抵一緒に食べているし、講義終わりに自然と並んで歩いている。 お互いの部屋に行ったことだって数えきれないほどだ。 あまりにも二人でいるから、周りからも「仲が良いね」と言われることが多く、セット扱いされていた。 でも二人で過ごす時間は長いけれど、確信的な言葉だけが言えなかった。 俺はその言葉が怖くて言えなかったけど、早崎は時々、冗談みたいに言う。 「それ、好きな人に対する態度だと思うけど」 「え、あ、いや、そんなことないと思うけど……?」 その度に俺は誤魔化して笑うことしかできなかった。 それからも早崎が俺を甘やかしてくれる生活は続いた。恋人ではないはずなのに、優しく、甘い日常を積み重ねていた。 「あ、おはよ、由衣」 「おはよう」 「これ、飲んで?」 「何?」 渡されたペットボトルを見ると、新発売のドリンクらしく俺が好きそうなものだった。 「由衣が好きそうって思ってさ、思わず買っちゃった」 「ありがと、多分好き」 こういう好きなら気軽に言えるのに、なんて思いながら、俺は大事に大事にその飲み物を飲むのであった。 「あーもー眠い、レポートも進まない!」 俺の家でノートパソコンを広げながら早崎は項垂れていた。俺はそんな早崎にそっとコーヒーを淹れて差し出した。 「え、由衣ちゃんやっさしー、大好き」 「はいはい、ふざけてないでそれ飲んだらレポートやれよ」 早崎は魔性である。ふざけた大好き、にだって俺の心臓はぎゅっと締め付けられていた。 (これが全部、本当なら良いのに) 俺が早崎に何かするたびに、早崎は「一緒にいると楽だね」とか「今日来てくれてよかった」とかさらっと言ってのけた。 俺はそれを全部、早崎からの『好き』の代わりみたいに受け取ってしまいそうだった。 勘違いしちゃいけないのに、そんなわけないのに、自分に言い聞かせるのに必死になっていた。 でも、好きじゃなかったら、早崎のこの態度は何なのだろうか?とも思っていた。早崎が本当に俺のこと好きだったらいいのに。 ある日の帰り道、早崎が何気なく言った。 「俺さ、由衣のこと好きだよ」 あまりにも自然に、なんでもないみたいに言うので、俺は立ち止まってしまった。 「そんな、気は、してたり、してなかったり……」 「だよね」 早崎は笑って続ける。 「で、言われるのと、自分で言うの、どっちがいい?」 早崎にそう言われ、少し黙る。少し沈黙があって、俺は息を吸う。 「……好きだ、ずっと言うタイミングを探してた」 声は小さいけど、決して逃げなかった。 早崎はちょっと意外そうに目を丸くしてから言う。 「うん、ちゃんと聞けた」 早崎は無言で俺の手を握って歩き出した。 「じゃあさ、これからは言わなくてもわかる、じゃなくて、わかっててもちゃんと言おう」 俺は少し照れながら答える。 「善処、します」 「ま、必要ないか、今のが一番よかったし」 夕方の帰り道、二人の影は繋がっていた。 ---------- 早崎蓮(はやさき れん) × 宮田由衣(みやた ゆい)

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