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四章『第五話 双子の恩人②』
「――――確か、その武器屋の店主は、二人の親代わりみたいなものなんだよな?」
道中、なんとなくの世間話のつもりで、先を歩く二人に声を掛ける。折角だし、会う前にどんな人なのかくらい、聞いておきたかったから。
すると、山吹は満面の笑みで、銀は控えめにこくりと頷いた。
「そうですねー。親、というより姉弟に近い感じもしますけど……ただ、俺たちが今こうしていられるのは、あの人のおかげっすね」
にかっと笑って、「お人好しの鑑みたいな人なんですよ」と、山吹は軽く言う。
――――その軽さに、少しだけ胸が詰まる。
「……そうか」
知っているから。こいつらの事情は。
副長として、嫌でも目にしてきた。特にこの双子は、自分が副長になってから、文月班に配属されたから。
だからこそ、余計に。何も言えなくなる。
「副長」
どうにか返した俺の言葉に、静かな声が重なった。
顔を上げると、透き通るような金色の瞳が、まっすぐ俺を見ていた。
柔く緩んだ目尻が、いつもより少し大人びて見えて――――そのせいで、どきりと、妙に心臓が跳ねる。
「な、ん……」
なんだ、と。ただそう聞きたかったのに、声が掠れた。
そんな俺に、山吹は……にかっと、今度こそ見慣れた笑顔を浮かべた。
「多分、副長はあの人と、話が合うと思いますよ」
「……は?」
突然の空気の切り替わりと、その断言に、思わず間抜けな声が出る。
「な、にを根拠に――――」
「確かに、それは言えてるな」
それでもどうにか、話を続けようと口を開いたけれど。すぐに、手前から同意の声が飛んできて、また目を丸くする。
「だろぉ?」
銀の同意に、山吹はますます機嫌よく、鼻歌なんか歌い出した。けれど、俺はまだどう反応していいのか分からず、眉根を寄せてしまう。
知らない相手と話が合いそうって言われても……どう反応したらいいんだ、それ。
「あっ!」
そうこうしていると、山吹が大きく声を上げた。
「着きましたよ!」
ぱっと、視界の先を指さされ、促されるまま目を向ける。
そこには、小さな店が一軒、静かに建っていた。
木造の、年季の入った外観。周囲の石造りや煉瓦の建物に比べて、ひどく落ち着いた色合いのそれは……正直、武器屋には見えなかった。
入り口には『Open』の看板。けれど中の様子は見えず、営業中だというのに、人の気配は薄い。
そう、不自然なほどに。……音が、しない。
「……」
本当にここが、二人の言う腕利きの職人がいるお店なのか――――そう、失礼なことを思っていると。
「小さな店ですが、腕は確かですから」
こちらの思考を読んだように、声が飛んできた。
思わず、しまったと目を瞠る。
別に貶すつもりはなかったが……そう取られても、おかしくない顔をしてしまった。
「……悪い。そういうつもりじゃなかったんだ」
素直に謝る。
流石に、大事な人の店をそうやって不躾に見られたら、気分は良くないよな……。
そう思ったけれど。銀は怒るでもなく、「いえ、」と零して笑った。
「大丈夫ですよ。実際俺も、この見た目で武器屋とは思えないって思ってますから」
あの人の趣味とはいえ、可愛すぎますもんね。
そう言う銀の言葉に、ホッとする。
良かったと、そんなことを思っていると。くすくすと銀が笑うものだから、首を傾げる。
「どうした?」
「ああいえ、すみません。……以前、班長も同じ反応をされていたのを思い出して」
やっぱり、と、続いた次の言葉に、俺は間抜けな声を漏らしてしまった。
「よく、夫婦は似るって言いますけど、本当なんですね」
「…………は?」
さらっと、そんなことを言われて。
一瞬、思考が止まった。
「やっぱ、親密な付き合いが長いと、思考も似るんですかね。いいですよね、そういうの」
そんな中、銀は俺の様子に気付いているのかいないのか。にこにこと笑顔のまま、そんなことを言ってのける。
――――夫婦? ……誰と、誰が?
瞬間過る、燐の顔に。この間、抱き締められた時に感じた体温を思い出し、ぶわりと顔に熱が籠った。
「は――はっ⁉ いや、待て銀っ! おまっ、おまえ、なに言って……っ⁉」
咄嗟に訂正しようにも、声が裏返り、途端上手く言葉が紡げなくなる。
そんな中。俺の様子に、不思議そうに首を傾げる銀の向こうで、山吹の声が飛んできた。
「二人ともー、何話してんの? 早く来てよー」
山吹の、間延びした声。視線を向ければ、いつの間にか、扉の前まで行っていた。
「今は仕事中なんだからさぁ。早く行こうよー」
俺たちを見て、ぶぅぶぅと小言を零す山吹に、銀は聞き捨てならないといった様子で姉弟へと睨みつける。
「お前が言うな、それを」
けれど、山吹はどこ吹く風。気にした様子のない兄弟に、銀はため息を零しながら、傍へと歩き始めてしまった。
「ちょっ、し、銀! 今の話――っ」
「副長もー! なにしてるんですー?」
呼び止めようとしたものの、その声は山吹のものが被さり、届かなかった。
「早くしないと、班長が心配して迎えに来ちゃいますよー! 『千草が帰ってこない!』って!」
「は、はぁ⁉」
そうしたら、今度は山吹までそんなことを言ってくるものだから。また声が裏返った。
「やまぶ――っ、お前もか⁉︎」
だから、俺と燐はそういう関係じゃない。
そう言い返したいのに、衝撃が勝って、上手く言葉が出てこなくなる。
「そういうわけだから、入りますねー!」
結果、山吹は俺の到着を待たず、店の扉へと手を掛けた。
そのまま、二人の背が店の中へと入っていく。
……あとで、必ず訂正しよう。
諦めてそう思い直し、俺も二人を追う。
「槐(えんじゅ)さーん! また武器の修理、お願、い――――」
扉を開け、山吹が元気よく声を上げて、店に入った――――その瞬間。
「……は?」
声のトーンが、急激に落ちた。
「…………なんだよ、これ」
続けて入った銀も、同じように言葉を失っていた。
すぐに駆け寄って、二人のすぐ後ろで声を掛けた。
「二人とも、どうした――――」
その時。
視界の端。扉の陰に――ゆらりと揺れる、影が映った。
ぞわりと、背筋を嫌な気配が駆け上がる。
「山吹、銀! 左だ!」
反射的に叫ぶ。
二人の反応は、速かった。
――――けれど。
ほんの、一拍。山吹の動きが、遅れる。
「山吹っ!」
ごどり、と。
理解するよりも先に、鈍い音が、店内に響いた。
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