33 / 39

四章『第五話 双子の恩人②』

「――――確か、その武器屋の店主は、二人の親代わりみたいなものなんだよな?」  道中、なんとなくの世間話のつもりで、先を歩く二人に声を掛ける。折角だし、会う前にどんな人なのかくらい、聞いておきたかったから。  すると、山吹は満面の笑みで、銀は控えめにこくりと頷いた。 「そうですねー。親、というより姉弟に近い感じもしますけど……ただ、俺たちが今こうしていられるのは、あの人のおかげっすね」  にかっと笑って、「お人好しの鑑みたいな人なんですよ」と、山吹は軽く言う。  ――――その軽さに、少しだけ胸が詰まる。 「……そうか」  知っているから。こいつらの事情は。  副長として、嫌でも目にしてきた。特にこの双子は、自分が副長になってから、文月班に配属されたから。  だからこそ、余計に。何も言えなくなる。 「副長」  どうにか返した俺の言葉に、静かな声が重なった。  顔を上げると、透き通るような金色の瞳が、まっすぐ俺を見ていた。  柔く緩んだ目尻が、いつもより少し大人びて見えて――――そのせいで、どきりと、妙に心臓が跳ねる。 「な、ん……」  なんだ、と。ただそう聞きたかったのに、声が掠れた。  そんな俺に、山吹は……にかっと、今度こそ見慣れた笑顔を浮かべた。 「多分、副長はあの人と、話が合うと思いますよ」 「……は?」  突然の空気の切り替わりと、その断言に、思わず間抜けな声が出る。 「な、にを根拠に――――」 「確かに、それは言えてるな」  それでもどうにか、話を続けようと口を開いたけれど。すぐに、手前から同意の声が飛んできて、また目を丸くする。 「だろぉ?」  銀の同意に、山吹はますます機嫌よく、鼻歌なんか歌い出した。けれど、俺はまだどう反応していいのか分からず、眉根を寄せてしまう。  知らない相手と話が合いそうって言われても……どう反応したらいいんだ、それ。 「あっ!」  そうこうしていると、山吹が大きく声を上げた。 「着きましたよ!」  ぱっと、視界の先を指さされ、促されるまま目を向ける。  そこには、小さな店が一軒、静かに建っていた。  木造の、年季の入った外観。周囲の石造りや煉瓦の建物に比べて、ひどく落ち着いた色合いのそれは……正直、武器屋には見えなかった。  入り口には『Open』の看板。けれど中の様子は見えず、営業中だというのに、人の気配は薄い。  そう、不自然なほどに。……音が、しない。 「……」  本当にここが、二人の言う腕利きの職人がいるお店なのか――――そう、失礼なことを思っていると。 「小さな店ですが、腕は確かですから」  こちらの思考を読んだように、声が飛んできた。  思わず、しまったと目を瞠る。  別に貶すつもりはなかったが……そう取られても、おかしくない顔をしてしまった。 「……悪い。そういうつもりじゃなかったんだ」  素直に謝る。  流石に、大事な人の店をそうやって不躾に見られたら、気分は良くないよな……。  そう思ったけれど。銀は怒るでもなく、「いえ、」と零して笑った。 「大丈夫ですよ。実際俺も、この見た目で武器屋とは思えないって思ってますから」  あの人の趣味とはいえ、可愛すぎますもんね。  そう言う銀の言葉に、ホッとする。  良かったと、そんなことを思っていると。くすくすと銀が笑うものだから、首を傾げる。 「どうした?」 「ああいえ、すみません。……以前、班長も同じ反応をされていたのを思い出して」  やっぱり、と、続いた次の言葉に、俺は間抜けな声を漏らしてしまった。 「よく、夫婦は似るって言いますけど、本当なんですね」 「…………は?」  さらっと、そんなことを言われて。  一瞬、思考が止まった。 「やっぱ、親密な付き合いが長いと、思考も似るんですかね。いいですよね、そういうの」  そんな中、銀は俺の様子に気付いているのかいないのか。にこにこと笑顔のまま、そんなことを言ってのける。  ――――夫婦? ……誰と、誰が?  瞬間過る、燐の顔に。この間、抱き締められた時に感じた体温を思い出し、ぶわりと顔に熱が籠った。 「は――はっ⁉ いや、待て銀っ! おまっ、おまえ、なに言って……っ⁉」  咄嗟に訂正しようにも、声が裏返り、途端上手く言葉が紡げなくなる。  そんな中。俺の様子に、不思議そうに首を傾げる銀の向こうで、山吹の声が飛んできた。 「二人ともー、何話してんの? 早く来てよー」  山吹の、間延びした声。視線を向ければ、いつの間にか、扉の前まで行っていた。 「今は仕事中なんだからさぁ。早く行こうよー」  俺たちを見て、ぶぅぶぅと小言を零す山吹に、銀は聞き捨てならないといった様子で姉弟へと睨みつける。 「お前が言うな、それを」  けれど、山吹はどこ吹く風。気にした様子のない兄弟に、銀はため息を零しながら、傍へと歩き始めてしまった。 「ちょっ、し、銀! 今の話――っ」 「副長もー! なにしてるんですー?」  呼び止めようとしたものの、その声は山吹のものが被さり、届かなかった。 「早くしないと、班長が心配して迎えに来ちゃいますよー! 『千草が帰ってこない!』って!」 「は、はぁ⁉」  そうしたら、今度は山吹までそんなことを言ってくるものだから。また声が裏返った。 「やまぶ――っ、お前もか⁉︎」  だから、俺と燐はそういう関係じゃない。  そう言い返したいのに、衝撃が勝って、上手く言葉が出てこなくなる。 「そういうわけだから、入りますねー!」  結果、山吹は俺の到着を待たず、店の扉へと手を掛けた。  そのまま、二人の背が店の中へと入っていく。  ……あとで、必ず訂正しよう。  諦めてそう思い直し、俺も二人を追う。 「槐(えんじゅ)さーん! また武器の修理、お願、い――――」  扉を開け、山吹が元気よく声を上げて、店に入った――――その瞬間。 「……は?」  声のトーンが、急激に落ちた。 「…………なんだよ、これ」  続けて入った銀も、同じように言葉を失っていた。  すぐに駆け寄って、二人のすぐ後ろで声を掛けた。 「二人とも、どうした――――」  その時。  視界の端。扉の陰に――ゆらりと揺れる、影が映った。  ぞわりと、背筋を嫌な気配が駆け上がる。 「山吹、銀! 左だ!」  反射的に叫ぶ。  二人の反応は、速かった。  ――――けれど。  ほんの、一拍。山吹の動きが、遅れる。 「山吹っ!」  ごどり、と。  理解するよりも先に、鈍い音が、店内に響いた。

ともだちにシェアしよう!