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第2話
松永雪弥とは不思議な男で、幼馴染である俺以外とは基本喋らない。だから周りからは無口でクールな人間だと思われている。
小さい頃は顔が可愛いのを理由に、いじめられることもあったが、その度に俺が守っていた。ユキはよく『コマはヒーローだね』なんて言ってたのは、この影響だろう。
ユキが俺以外とあまりに交流しないので、中学生の頃に一度だけユキに、
『俺以外とも仲良くしたら?』
と言ったことがあった。
それを聞いたユキは、
『俺はコマがいいよ』
と泣きながら言った。ユキが泣きながら俺がいいと言ったから、それ以来そのことはユキに言わないようにしている。
ユキと別れてから、ぼんやりと考える。ユキと俺の家はお隣さんで、俺たちが生まれる前から両親同士が仲良く、おかげで俺とユキは仲良くなることができた。
「ユキが俺を好き、か……」
自室のベットに寝転びながら独りごちる。一体俺の、どこを好きなったというのだろうか。自慢じゃないが、俺は何もかもにおいて平均点、平凡であった。
他人より少し明るい自覚はあるので、友達は多くあるが、それ以上でもそれ以下でもない。ユキのことを特別扱いした覚えもないので、特段ユキから好かれる要素がないのだ。そもそも告白されたこと自体も初めてだったので、その日はグルグルとユキのことばかり考えていて、あまり眠ることができなかった。
「くぁ、」
「おはよ、コマ」
「おはよ、ユキ」
特に約束をしていなくても、自然と朝家を出る時間はユキと同じだった。朝イチからユキの顔を見て少しだけ意識する。生まれて初めて告白されたんだ、意識しないでいろという方が無理な話だろう。
いつもと変わらない通学路、いつも隣にいるユキ、いつも通りのはずなのに、どこかいつもと違っている気がして緊張した。
「コマ、意識してるでしょ」
少しニヤけて嬉しそうにユキは言った。イケメンの余裕かこの野郎。どうせ俺は意識しまくってる童貞だよ。
「うるさいな!仕方ないだろ!」
「ごめん」
「ゆっくりでいいから今まで通り接してよ、寂しいから」
「わかってるって」
「ありがとう、コマ」
そうして、俺が意識してギクシャクしていた時期もあったけど、1週間もすれば俺は今まで通りユキと接していた。人間慣れとは恐ろしいものだ。自分でもこんなに早く順応するとは思わなかったが、ユキのおかげだろう。
ユキが今まで通りに接してくれたおかげで俺は今まで通りに戻ることができた。
ユキと今まで通り過ごせるようになった、ある日のことだった。放課後にそれは起きた。俺はいつも通りユキをゲームに誘った。放課後の教室、HRも終わり部活に行くもの、帰るもの、みんな各々自由にしており少しだけ教室は騒がしかった。
「ユキ!帰ろうぜ!今日こそゲームでユキに勝つ!」
「わかった、手加減しないよ」
帰り支度をしながらユキが答える。ユキは俺と違って教科書をしっかり持って帰っているのだ。かくいう俺は当たり前に学校のロッカーに入れっぱなしにしていた。試験前にユキに泣きつくのはいつものことなのである。
俺は、最近手に入れた対戦ゲームで一向にユキに勝てずにいた。俺が買って、何回も練習しているはずなのにユキに勝てなかった。ユキはなんでも器用にこなすので、ゲームも基本的にコツさえ掴めてしまえばそつなくこなしてしまうのだ。
「当たり前だっつの!手加減したお前にー……、」
「松永!」
ユキと話していると誰かにユキが呼ばれた。
「ちょっといい?」
そこにいたのはクラスメイトの澤田亜希と野木彩子だった。声をかけてきたのは澤田で、野木さんは澤田の後ろに隠れて不安そうな表情をしながらこちらを見ていた。
「澤田?どうかしたの?」
「用があるのは狛井じゃなくて松永の方。ついでに用があんのは私じゃなくて、この子」
「ご、ごめんね松永くん!少しだけ時間くれるかな?すぐ済むから!」
セーターの袖を握りしめながらもじもじとする姿は、外野の俺でも可愛らしいな、と思ってしまった。女の子らしいとはまさに野木さんのようなことを言うのだろうな、とどこか遠くで考えていた。
「ユ、ユキ?」
「俺は大丈夫だよ。野木さん、少しだけならいいよ、話そう」
ユキがそういうと野木さんは頬を赤らめながら、安堵の表情を見せた。一方で不安そうな表情を浮かべる俺に対して、ユキは俺の頭をぽんと撫でた。
「コマは先に帰ってて?あとでコマの部屋に行くから、ゲームの準備して待ってて」
俺を安心させるような声色でそう言うと、ユキと野木さんは教室をあとにした。
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