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第3話
二人の出ていった教室の扉を眺めながら急に不安に襲われる。漠然とした不安で、何に対して不安になっているのか、俺にはわからなかった。
「なんであんたが不安そうな顔してんのよ」
澤田に言われてハッとした、まさか表情にまで出ていたとは思わなかった。
「いやだって、ユキは人と話すのが苦手だし、俺以外とは、その、」
「いい加減、松永離れしたらどうなの?」
どう言葉にしたら良いものかとしどろもどろになっていると、澤田はピシャリと俺にそう言った。さらに澤田は追い討ちをかけるかのように畳み掛けた。
「一生一緒にいられるわけじゃないんだから、あんた以外と関われるようにしたらどうなの?」
一生一緒にいられない、そんなことは俺にもわかってる。でもユキが、ユキが俺がいればいいと言ったのだ。
「でも、ユキが俺がいればいいって言うから……!」
「アホらし、今から彩子のこと邪魔しに行ったりしないでよ。彩子は本気で松永のことが好きなんだから」
「わかってるよ!邪魔しないって!」
「あと松永に恋人が出来たからって邪魔したりすんじゃないわよ」
「もー!しないってば!」
澤田に吐き捨てるようにそう言って学校をする。
なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ!!みんなして、俺をなんだと思っているのだ。話し相手のいない下校道は他のことを考えようとしても無理で、結局グルグルとずっと同じことばかり考えてしまった。
ユキは、野木さんと付き合うのかな?可愛かったもんな。でも本当に付き合うの?俺のこと好きって言ったのに?そんなことをグルグルと考えるうちに家に着いた。最近ずっとユキのことばかり考えてるような気がして少しだけムッとした。
でもユキは興味ない相手とは付き合わないって言ってたしな、そう思いながらユキが来るまでにゲームの準備を終わらせておこうと、思考を無理やり振り払ってゲームの準備を始めた。
ゲームの準備が終わり、そう時間も経たないうちにユキは俺の部屋にやってきた。
「お待たせ、コマ」
「お、おう」
ユキはただ荷物を置き、俺には何も言わない。さっき何があったのかどうなったのか、とか、何も。
「そ、それで」
「?」
ユキはきょとんとする。俺の気になってることは聞くまで答えないつもりなんだろう。
「野木さん、とは」
「あぁ」
そこまで言うとようやくユキは口を開いた。多分きっと告白されて、いつものように断った、なんでもないことだったから報告しなかったのだろう。
「付き合うことにした」
「え?」
衝撃で稲妻が落ちるとか、もしかするとこういうことなのかもしれない、と頭のどこかで考えつつも、脳がユキの言葉を理解するのを拒もうとしていた。
ユキが?付き合う?誰と?
「野木さんに告白されたから付き合うことにした」
二の句が継げずにいると、ユキは俺に追い討ちをかけるように言った。
「ユキは、俺のこと好きだったんじゃ……?」
やっとの想いで出した声は少し震えて掠れていた。
「コマにはフラれちゃったし、いつまでもコマに依存してちゃ悪いでしょ?だから俺も一歩踏み出さなきゃって思ったんだ」
「…………、」
そういうユキは決意に満ちて、笑顔で、俺の知らないユキみたいだった。俺がいいと言って泣いていたユキはもうここにはいないんだ、と思い知らされる。
「それに、コマが言ってたでしょ?」
「何を?」
やっとの思いで聞き返す。
「告白されて、ドキッとしたから付き合うってさ」
「あ、うん、そうだな」
「野木さん可愛かったし、俺が守ってあげたいと思ったから、付き合おうかなって思って」
「そっか、」
確かに言った、俺がそう言った。俺がそうユキに言ったのだ。
多分きっとこれはユキにとっていいことなんだと思う。俺から離れて、俺以外を選んで、いい機会だと、いい機会のはずなのに。
なんで俺はこんなに、傷付いているのだろうか。
「コマ、どうしたの?ゲームしないの?」
野木さんと付き合う話題など、なんでもないようにユキは続けた。ユキにとって大したことじゃないのかもしれない。
でも、今の俺にはずっと。
「し、ない……!きゅ、急にお腹痛くなってきたから今日はしない!」
「大丈夫?俺、薬とか持ってこようか?」
「いらない!何もいらない!寝てれば治るから!」
「そっか、わかった、お大事にね。今日は帰るよ」
「…………、」
心配するユキを無理やり帰し、一人になる。
「なんでこんなことに、なっちまったんだろ」
ユキが俺から離れて、ユキにとって望ましいことで、いいことのはずなのに。
ユキに恋人ができて、なんで俺は苦しいんだ?
「もしかして、これって、ユキのことが好きなのか……?」
自覚した途端に恥ずかしくなる。とんだお笑い種だ。ユキに告白されて断って、ユキに恋人が出来てから自分の気持ちを自覚するなんて。
俺にはもうユキに好きって言う権利なんて、ないのに。
明日、どんな顔をすればいいのかすら、俺にはわからなかった。
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