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第8話
「ん、あれ、俺……?」
目を覚ますと見知らぬ天井、なんてことはなくて、見たことのある保健室の天井だった。まだ起き抜けでぼんやりとしていると、仕切りのカーテンが開けられる。
「狛井くん目を覚ましたのね、体調はどう?」
カーテンを開けたのは養護教諭だった。先生の年齢は四十代半ばのみんなのお母さんみたいなポジションの人だった。物腰が柔らかくて、まとう空気がとにかく優しいのだ。
「大丈夫です、俺……?」
「睡眠不足と疲労かしら、熱を出して倒れたのよ。頭は打ってないみたいだけどどこか痛むところはあるかしら?」
「大丈夫です、全然、今は元気です」
「若いからって無理しちゃダメよ?」
「う、はい」
先生のまとう空気にあてられてか、なぜか少し気持ちが穏やかになる。もしかするとずっと気を張ってたのかもしれない。
「とりあえず、熱だけ測ってもいいかしら?」
「あ、はい」
先生が持ってきた体温計を脇に挟み、ものの数十秒でピピッと音が鳴った。
「ほとんど微熱ね、このまま帰る?それとももう少し休んでから帰る?今は5時限目だから、あと少しで授業も終わる時間よ」
体温計を眺めながら先生はそう言った。
「もう少しだけ休んで帰ります」
「そう、じゃあ松永くんが迎えにきてくれると思うわ。彼すごく心配そうな顔していたの。あとで鞄を持ってくるから、先に帰るんだったら鞄を家に運ぶって言ってたわ。放課後まで待つなら彼と一緒に帰った方が危なくないわ」
「わかりました、ありがとうございます」
優しくていい幼馴染を持ったわね〜なんて先生が言ってたけど、返事をする余裕はなかった。
コマは、優しいな、ただの幼馴染である俺のためにそんなにしてくれるなんて、と考えていると、俺は再び微睡の中に落ちていった。
「……マ、コマ、大丈夫?」
「ユキ……?」
ユキに揺すられて目を覚ました。多分5時限目が終わって、HRも終わったのだろう。ユキは心配そうな顔をして俺を覗き込んでいた。
「よかった、大丈夫?」
「うん、寝たし熱も下がったみたい、心配かけてごめんな」
「ううん、大丈夫。体調戻ったみたいでよかった。それじゃ、帰ろ、荷物は俺が持つから、歩ける?無理ならおんぶとかでも帰れるけど」
「い!いい!歩けるから!大丈夫!」
そっか、なんて言いながらユキの表情からして冗談ではなさそうだったので怖い。歩けないと言えばユキはきっと俺をおぶって帰っただろう。
今おんぶなんかされたら、距離の近さに死んじまうっての。
ユキと二人の帰り道、今日の俺は本当に熱が出ていたのだろうか?と思うくらい元気になっていた。いや、これは現金というのだろうか。
おんぶこそされなかったものの、ユキは俺のバッグを持つと言って聞かなかった。
「コマってば、ちゃんと寝なきゃダメだよ、夜更かしして何してたの?」
「今日は早く寝るから大丈夫だよ。その、動画とか見てただけだって……」
だから!お前のこと考えて眠れなかったんだってば!本人には言えないんだから、そんな根掘り葉掘り聞かないでくれ、なんて思いながら。
「明日は休まないの?」
ユキは心配そうな表情でそう聞いてくる。
「今日寝たら回復するだろ、大丈夫だよ」
「そう?」
「体力ある方だから大丈夫だって」
「体育は見学しなよ?」
「過保護か!俺は普通に結構頑丈だっての」
滅多なことで体調を崩さないからこそユキは心配なのだろう。これじゃまるでユキが俺の親か何かみたいだ。そんなに過保護にならなくても、俺は大丈夫だけど、心配されることが少し嬉しかった。
「ごめん、でも心配だったから明日は無理しないって約束してくれる?今日コマが倒れたって聞いて俺すごい怖かったんだ」
「う、わかった、悪い。もう無理しない」
「明日は俺が弁当作ってあげるよ、健康に良さそうなもの作るから」
「そこまでしなくていいっての」
「嫌だ、今日の埋め合わせも含めてする」
こうなったらユキは頑固だから、テコでも動かない。なので、俺は頷くしかないのである。そして、俺はユキのこういうところに弱かったりする、意外と押しが強い部分でもある。
でもユキのこういうところはあまり他の人には見せなくて、俺にしか見せない部分でもあるのだ。
「わかったよ、ユキに任せる」
「ありがと、嬉しい。俺頑張るね」
ふわ、とユキは笑った。ユキの笑顔に思わず心臓がギュッとなる。不意打ちはやめろって言ってるだろうが。
「帰りは流石に野木さんと帰れよ」
「そんなの無理だよ、帰りが一番心配だもん。どこかで倒れてたりしたら、俺が怖いから」
「もーー!わかったよ!過保護は明日までな!」
「ありがと」
楽しい時間は本当にあっという間で、いつの間にか俺の家の前に来ていた。昨日はあんなにも長く感じたのに今日は遥かに短かった。この時間がもっと続けばいいのに、と思うほどに。
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