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第9話

「じゃ、送ってくれてありがとな。ここまでで大丈夫だから」 「部屋まで送るって」 「もーそんなにしなくても大丈夫だっての」 「俺がしたいんだって」 そう言うとユキは強引に家まで上がって、俺のことを着替えさせてベッドに寝かしつけるまでしてのけた。 いやいや、俺は子供じゃないんだからそこまでしなくていいんだっての!という俺の抵抗は虚しく、ユキにされるがまま寝かしつけられてしまった。好きな相手になんて情けないことか。 「おばさんに連絡はした?」 「一応連絡は入れた。仕事終わったら帰るからごめんねだって」 「そう、あと他に必要なものとかない?大丈夫?」 「高熱が出てるわけじゃないから大丈夫だっての。もうほとんど平熱に近いから、何もいらないし心配もいらない」 「わかった、じゃあ俺家に戻るけど、何かあったら電話してね?」 「わーったわーったから!」 「おやすみ」 心配そうな顔をしながら、ユキは俺の頭をひと撫でして帰って行った。 「そんなん、ずりぃだろうが……」 俺はユキのことが好きなんだから、そんなんされたらときめいちまう。それに一応恋人がいるにも関わらず、ここまでしてもらったら少しだけ、ほんの少しだけ期待してしまう。 俺にそんな権利なんてどこにもないのに。一度ユキのことを振ったくせに、何を今さら。 好きなのに、好きって言えないのがこんなに苦しいとは知らなかった。 ユキも、そうだったのだろうか。俺のことが好きなのに、好きと言えないのは苦しかったのだろうか。 ユキに好きと言わせなかったのは俺なのに、誰が、どの口が、ユキのことを好きと言えるのだ。 ぐるぐると答えの出ないことを考えながら、俺はまた眠りに落ちていくのだった。 翌日、目が覚めると熱が出ていたとは思えないほど元気になっていた。やっぱりよく寝るのって大事なんだな。というか、これが世に聞く知恵熱というやつなのではないだろうか。 昨日一日で、ユキに大事に扱われて、俺がユキの中で大事にされている存在なんだな、と実感したら、それだけで少し気分がよかった。 ユキの一番じゃなくても、こうして幼馴染として、友人として、大事にしてもらえたらそれでいいじゃないか、そう思った。 台所で朝食を用意する母さんに声をかけると顔色が良くなってよかった、と言われる。うーん、昨日はよっぽど顔色が悪かったらしい。 そこまで自覚はなかったが、やっぱり具合が悪かったんだな、などと思いながら、トーストにたっぷりと苺ジャムを塗りたくって齧る。 朝ごはんを食べる元気があるんだから、今日はもう大丈夫だなと漠然と考える。まぁでも、ユキは今日まで過保護だからな。俺自身は元気だが、甘んじて受け入れよう。 いつも通りの8時と少し前、ユキが俺のことを迎えに来た。 「ユキ、おはよ!今日は元気だからなんの心配もいらないぜ!」 ユキに心配される前に宣言する。 「よかった、でも病み上がりに変わりはないから無理しないようにしてね」 「はーい」 ユキと二人の通学路は楽しくて幸せで、俺はそれだけでどこかふわふわとした気持ちになる。 ふわふわとした気分で登校したからか、午前の授業に身が入るわけもなくあまり真面目に授業を聞くことなく終えた。今度ユキにノートを見せてもらおう。ユキは俺と違って真面目だからな。

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