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第5話 カルテ
俺は上川秘書の「急ぎの用」という言葉がずっと気になっていたが、
ミツワに着いたのは夕方になってしまった。
「先生、なんだろうねえ?俺もすごく気になるよ」
颯太が不安そうに言う。
「うん、とにかく話だけは聞こうよ」
院長室に行くと、上川秘書が飛ぶように駆け寄ってきた。
「上川秘書。お世話になりました。ありがとうございました。
すごく楽しかったです。ところで急ぎの用ってなに?」
「実は、大変なことがあったんですよ」
上川秘書は眉を寄せ、息をつく暇もなく話し始めた。
「朝一番に、ゆおんさんに助けてほしいと訪ねてきた人がいて……
女性は高校生くらいでしょうか。
全身傷だらけで、高熱でぐったりしていたんです。
管理スタッフが車いすに座らせてくれました。
一緒にいた男性はしっかりしていて、幼馴染だそうです。
彼女は両親からの暴力で逃げてきたと言うんです。
でも未成年だから、病院も警察も行けば家に連れ戻される。
『帰ったら殺される』と泣きながら言うんですよ。
かわいそうで……とりあえず病院の加護さんに連絡しました。
救急車で迎えに行ってくれると言ってくださって、
今は佐久間病院の精神科に入院したそうです。
着の身着のままで、二人とも何も持っていなくて……
それ以上は聞けませんでした。
あとはどうぞよろしくお願いします」
上川秘書は胸を押さえながら、一気に話し終えた。
颯太と顔を見合わせた。
「怖いねえ……かわいそうだよ。早く行こう」
颯太の声は震えていた。
「うん、そうしよう。なんてことだろうねえ。
上川さん、ありがとう。よくやってくれました。後はお任せください」
俺は佐久間総合病院の精神科病棟へ向かった。
加護さんに連絡しておいたので、玄関で待っていてくれた。
「院長、お帰りなさい。帰国早々あわただしくてすみません。
でも本当にひどい目に遭っているんですよ。
先にカルテをご覧になりますか?
写真も撮らせてもらっています」
「うん、そうしようかな」
カルテに添付された写真を見た瞬間、息が止まった。
全身が赤、青、紫のあざで覆われ、
ただの打撲ではなく、明らかに“暴力の痕跡”だった。
体温は39.2度。
肋骨は2か所骨折。
――よく、生きていてくれた。
胸の奥が熱くなり、怒りが込み上げた。
まだ高校2年生、17歳。
しかもカルテには「オメガ」と記されている。
颯太には……これは見せられない。
部屋を出ると、颯太がすぐそばに来た。
「ね、どうだったの?」
「全身の打撲が酷くて、あざだらけだ。
肋骨も2本ヒビが入っている。……よく生きていてくれたよ」
「ええー……?」
颯太はその場で崩れ落ちるように泣き出した。
「……うっ、うっ……かわいそうすぎるよ……
なんでそんな目に遭わないといけないの……?」
嗚咽が止まらず、涙が次々とこぼれ落ちる。
思わず抱きしめた。
「でも、うちに来てくれたから、まだよかったんだよ。
時間はかかるけど……うちだったら助けられるからね」
颯太の背中をゆっくり撫でながら、そう言った。
「さあ、早く青年に会いに行こう」
颯太は涙を拭き、こくりと頷いた。
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