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第24話 50億

 吉沢君の契約は今日の13時から、浅田タワーの9階・アニメプラスの会議室で行われる。 その日の朝一で広報スタッフから呼ばれた。 颯太は大学に行っているけど、午後から参加できる。 広報スタッフ4人は、何事かと思うほど思いつめた表情だった。 「一体、どうしたの?」 「あのう、私が広報を代表してお願いがあります」と山下さん。 「うん、いいよ、どうぞ」 「今日の吉沢さんの契約なんですが、私達も同席させていただいて、勉強させていただけないでしょうか? お邪魔するつもりは全然ないんです。 ただ、研修生の制度を作ったらどうかという意見もあったし、具体的に“歌手として契約する”というのは、どういうことなのか? どういう準備が必要なのか? 私たちはすべてが白紙状態なんです。 それで、どこから手を付けて良いのか?または、やるべきではないのか? もし出来るとしたら、どういう方向に進めばいいのか? それを知りたいんです。 そのためにも契約に同行して、彼のこれからの生活、どういう場所で勉強するのか? どういうトレーナーが必要なのか? そういったことを勉強させていただきたいんです。 夏さんや事務所の皆さんにはご迷惑かと思いますが、1度ぜひ全容を見せていただけないかと願っているんです。 なんとか夏さんにお願いしていただけないでしょうか?」と山下さん。 「お願いします!!」 声を揃えて、一斉に深くお辞儀をされた。 あら〜……ノーとは言えない雰囲気だな。 「はい、分かりました。では聞いてみますから、ちょっと待っててください」 俺は夏さんに「ご相談があるので、お手隙の時にお電話をいただけないでしょうか」 とメールをした。 すると、すぐ電話がかかってきた。 「はい、夏です。どうされたんですか?」 そこで、うちの広報スタッフのお願いをそのまま伝えた。 夏さんはふふっと笑っていた。 「とうとうそれが出ましたか?そのうち言われると思っていましたよ。 なんせ熱気に包まれた広報の皆さんですからね。感心しますよ。 良いですよ。皆さんも立花さんや颯太さんも、午後13時に9階の会議室にいらしてください。 契約だけでなく、彼が住むレジデンスや稽古場、これから始まることも含めて、すべてご披露します。 何なら録画して記録していただいても良いですよ。 うちも急に今のように整ったわけではないんです。 少しずつ積み重ねた結果が今なので、見るだけ見て、それで今後を判断されたらいいと思いますよ」 「ああ、もう本当にありがたいですねえ。 ありがとうございます。それでは全員で伺いますので、どうぞよろしくお願いします」 皆が息を呑んで俺の返事を待っていた。 「あのね……いいそうですよ」 わあー!と笑顔で拍手喝采だ。 そしたら、何事かと隣室の山川弁護士まで覗きに来た。 「一体どうしたんですか?」と山川弁護士。 事情を話すと、 「あー、それはぜひ私も見学させていただきたいですね。今後のためにもね」 仕事? ミーハー? ちょっと笑った。 「それでね、“すべてをお見せしますから、録画したり記録してください”とのことでしたよ。 それにね、“そのうち広報スタッフがそう言うだろうと思っていた”んですって」 「え、え、そうなんですか? バレてました?」と田代君。 「向こうもね、急に出来上がったわけではなく、少しずつ進んで今の状態になっているので、それを見てから判断してもらえばいいと夏さんが言ってましたよ」 はあ……と皆が撃沈した。 「まあ、せっかくのご厚意なので、ありがたく勉強させてもらいましょうよ。 俺的にはね、同じ規模を今ミツワでやるなら、良い人材が集まったとしても、相当な投資額とスタッフが必要だと思いますよ」 「あのう、いくらくらいだと思われるんですか?」と石井君。 「ざっと予想しても50億くらいかな? ただ、人材が集まるかどうかは別問題ですけどね」 ええ……と皆が沈黙してしまった。 「ただね、1度に必要というわけではなく、徐々に増えて大きくなっていって、今なら50億かかったということかもしれない。でも皆さんが始めたいと言うなら、俺は応援しますよ。多分颯太も同じだと思う」 「はい、分かりました。ありがとうございます。肝に銘じます。 今日はしっかり勉強させていただいて、またみんなで考えます」と山下さん。 「うん、そうだね。良く見せてもらいましょうよ。楽しみだよ。皆さん、 早めに昼食を終わらせておいてね。15分前には向こうに着くようにしましょう」 「はい、承知しました」 声が揃ったところで、皆が戻っていった。 その後、山川さんが、 「何事なんですか? 50億って」 「大丈夫ですよ。それくらいの覚悟がないと、始められないということを言いたかったんですよ」 「はあ、そうでしたか。では私も浅田さんに勉強しに伺いますよ。よろしくお願いします」 いつになく、山川弁護士が神妙な表情だった。

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