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第29話 颯太の覚醒

 その日は颯太がミツワに戻って来るのを待っていた。 会長室に戻ると、真っ先に個室のベッドにバタンと倒れるように横になった。 「颯太、大丈夫? 家に帰ろうか?」 「うん。待って、ちょっと待ってて......」 そう言いつつも目をつぶっていた。 余程疲れたんだろう。 いや、神経を集中させていたのかな? どうしようか。もうすぐ6時だ。 なにか食べさせないと、このまま朝まで寝てしまいそうだ。 よし、無理やり家に帰ろう。話はそれからだ。 「颯太、ここで横になってもしょうがないから、うちに帰ろう。車いすに乗せるよ」 そして抱いて車椅子に乗せた。 上川秘書に家に帰ると伝えると、すぐ飛んできた。 「あらまあ、大丈夫ですか?」 「うん、多分疲れすぎたんだと思うから、連れて帰るよ」 そのまま車で移動して家に帰ってきた。 部屋のベッドに颯太を移した。 目をつぶったままだ。しょうがないな。 そのまま着替えさせて寝かせた。 その間に夕食を作った。 颯太にはほうれん草とシーフードの茶わん蒸しと雑炊を作った。 食べれるかな? 先にシャワーを浴びた。 この分だと朝まで寝るな。あ~あ。 お昼寝なしのハードな1日は、颯太にはまだ無理だよね。 リビングでアイスコーヒーを飲みながらネットを見ていた。 そろそろご飯を食べるかと思っていた時に、颯太が起きて来た。 珍しい。 「どうしたの? もう寝なくていいの?」 「うん。起きる。寝てる場合じゃないの」 「は? なに言ってるの?」 「俺は先生と出会ってからずっとぬるま湯の世界に浸ってた。 それは幸せだったけど、それだけじゃダメだよね?」 「へ? ううん、俺は良いと思うけど、なんでダメなの?」 「だって甘え過ぎだもん。今日は皆が必死で踊る姿を見て、俺も踊れるってことを思い出した」 「ああ~そうだねえ。そういえばコンサートでは踊ったり歌ったりしていたよね」 「でしょう? 俺は踊れるはずなんだよね。忘れてたよ」 なんで今頃なんだよ? 「それでどうしたいの?」 「俺ね、夏さんのところで少しダンスを思い出したいんだよね。 出来る範囲でいいんだけど、ステラビートみたいには踊れないけど、少しずつなんかできないかなあ? 桐生さんにお願いして、俺をゆるい修業に出して欲しいの。どうかなあ?」 ははっと笑った。 「ゆるい修業? どうかなあ~ 向こうがなんと言うかだねえ」 「なんでもいいから頼んでほしいの」 「いいよ。颯太がその気ならいいけどさ。でもミツワの広報のスタッフはどうなの? 聞いた方がいいと思うよ」 「あ、そうだった……」 笑いをこらえていた。 身体の弱い颯太が今からダンス? 絶対無理だろう? でもせっかくその気になったのなら、明日はスタッフに言わないといけないだろうなあ。 きっと驚いて腰を抜かすぞ。 そして翌日、見学で打ちのめされて暗くなっているスタッフを会長室に呼び出した。 皆しょんぼりしていた。 「あのね、実は颯太から皆さんにお願いがあるんだって」 え? とみんな驚いていた。 「あのね。昨日夏さんに見学させてもらって、思い出したんだけど、俺って昔は歌って踊れてたんだよね。皆さん知ってますか?」と颯太。 「あ、ああ~知ってます。そうですよね?」なんて頷いていた。 「それでね、俺は夏さんのところに行って、修業をさせてもらいたいなあ~って思ったんだよね。良いかな?」 「へえ~??」皆の悲鳴のような声が出た。 「俺から補足するとね。確かに昔はコンサートで歌ったり踊ったりしていたんだよね。 でも15歳から18歳までそういう3年間を過ごして、声が出なくなるまで身体を壊してしまったんだよ。本当は今もまだ要注意だから、いきなり踊れるとは思えないんだけどね、 本人がやりたがっているから、経験してみてもいいのかなあと思う。 それで具合が悪くなるようなら、また考えればいいと思うしね。どうでしょうか?」と俺。 スタッフはお互いの顔を見合わせていた。 「確かに私達よりも向こうの方がノウハウや施設が充実していて、進化出来ると思います。悔しいんですけど、それは歴史が違うからしょうがないと思います。 でも颯太さんだけを行かせるのはちょっと危ない気がしています。 それなら私たちが日替わりでも颯太さんに付き添います。 それも勉強だと思うのでいいでしょうか?」と山下さん。 「ああ、それは助かるねえ。そうしてくれますか? 広報の仕事は大丈夫ですか?」 「はい、何とでもなります。夏さんにはいつお話になるんですか?」 「う~んと、今からだね。なんと言うかなあ? 向こうも忙しそうだしね」 颯太が俺をじろっとにらんだ。

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