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第30話 ゆるい修業

すぐ夏さんに電話した。 「はい、夏です。どうされましたか?」 「あのう、実は颯太がそちらで“ゆるい修業”をさせていただけないかと言っているのですが、どうでしょうか?」 「……は?」 「昨日の見学ですごく刺激を受けたみたいで、昔は踊れていたことを思い出したそうなんです。 それでステラビートのようには出来なくてもいいから、少し踊りを思い出したいと言っているんですよ。 ご迷惑でしょうか?」 「ああ……とんでもないです。 あの、すみませんがもっとお話を伺いたいので、アニメプラスまでお越しいただけますか?」 「はい、承知しました。今から伺います」 行くと言っても隣のビルだ。 「今から行くことになったんだけど、皆さんも来ますか?」 「はい!!」声が揃った。(笑) 「ほら、良いみたいだよ。颯太、一緒に行くぞ」 「はーい!!」と上機嫌だ。 5分ほどでアニメプラスの事務所に伺った。 「お待ちしていました。じゃあ、ちょっと社長室でお話を伺いますね」と桐生さん。 夏さんもニヤニヤしていた。 それで桐生さんの社長室に移動した。 「一体どうしたんですか? 急じゃないですか」と夏さん。 颯太をつついた。 「あのね。昨日見学させてもらって、ステラビートの皆さんが必死で練習しているのを見て、昔を思い出したんですよね。 確かに俺も昔は歌って踊っていたんですよ。 でも身体を壊して先生と出会って、静養している間にかなり良くなってて、今は大学に通えているんですけど……。 でもなんか感動しちゃったんですよね。俺ももう一度踊りたいなあ〜って思ったんです。 でもそんなにできないと思うから、ゆるくでいいので、なんか修業をさせていただきたいんです」と颯太。 桐生さんと夏さんが、顔や頭に手を当てて笑顔でいっぱいになった。 どういうこと? 「いやあ〜なんというか、うれしすぎて言葉が出ませんねえ」と桐生さん。 「修業なんてしなくても颯太さんは立派なプロの歌手ですよ。 それでも踊りたいのなら、いくらでもフォローしますよ。 でも何かをするには目的がいると思うんですよね。 例えば、今度はこういう曲を歌うから、それに合わせてプロモーション用のダンスを練習するとかですね。 だから、やみくもにダンスをすると、身体や時間が勿体ないんですよ。 こちらとしては、いくらでも応援したいし、望みを叶えますよ。 ただ、こちらで颯太さんを全面的にバックアップしてプロモーションまでやらせていただけるのでしょうか? うちではどんなやり方でも全力で対応させていただきます」と桐生さん。 颯太が「あれ?」という顔で俺を見た。 「多分ね。颯太はそこまで考えていなかったと思うんですよ。 ただ、やみくもにダンスの練習をするのが勿体ないと言われましたね? それならそれで、お任せしてもいいような気がしますが、颯太はどうなの?」 「う〜んと、まだ分からないんだけど、どうしたらいいのかなあ?」 「では一度、うちの強力なスタッフに任せていただけませんか? 曲も歌詞も用意します。それに合わせてMVを作りましょうよ。 そして全面的にこちらでプロモーションをしますので、マネジメントをお任せいただけないでしょうか?」と桐生さん。 ぷっと笑ってしまった。 「もう、桐生さんも夏さんも。本当にプロですねえ。負けますよ。 颯太、それでいいの?」 桐生さんも夏さんもクスクス笑っていた。 「うん、なんかわかんないけど、いいよ」と颯太。 「ミツワの広報さん。良いですか?」と夏さん。 「あ、はい。颯太さんがOKなら、こちらは問題ないです。何も拘束することはできません。 ただ、身体が弱いので私たちが日替わりで付き添わせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」 「ええ、それは全くかまいませんよ。むしろその方が安心しますよ」と夏さん。 「では早速マネジメントの契約書を用意しますが、そろそろ出来ているかな?」 電話のブザーを押して誰かを呼んでいた。 すぐドアをノックして村瀬さんがやってきた。 「お待たせしました。こちらでよろしいでしょうか?」と契約書を出してきた。 え? もう? 早すぎだよ。 「随分手回しが良いですねえ」と言うと、 二人とも笑顔がこぼれてしょうがないといった風情だ。 「これは今後の颯太さんのマネジメントを専属でやらせていただくという契約書になります。 詳細はこれから話し合ったうえで決めていけばいいと思います。 体力面でも都合が付く時だけでいいんです。 無理のないように柔軟な体制でこちらもやらせていただきます。 MVを発表する段階になったり、どこかに出演したり、そういう事になりましたらその都度契約書を用意します。 ですので、無理な時はノーということができます。 それをこれからアニメプラスに専属でやらせていただきますという契約書です」 なんだかペンを出されて、颯太は俺の顔を見ながらサインをした。 あ〜あ。しちゃった。 だってうまいんだもん、この二人。

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