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第45話 弱者たちの未来
その夜、夕食が終わってコーヒーを出した。
颯太は、まだかまだかと息を殺して、じっと俺を見つめている。
その顔が面白いような、言いにくいような……。
「先生、さあ、どうぞ。早く聞かせて」
「あのね、今三人の子を預かってるでしょう?
で、小林さんは“今後どんどん増えるだろう”と言って、和室を改築するだけじゃなく、学生寮か社員寮まで探しているんだよね。
まあ10人くらいなら、なんとか仕事をあてがうことは出来るかもしれない。
でも、もし50人とか80人とか来ちゃったらどうする?」
「ええ? まさかそんなに来ないよ」
颯太は笑った。
「こういう人数をただ養うだけだと、税法上の保護はないんだよ。
仕事もそんなに用意できない。
学校も全部うちで出してあげないといけない。
それがずっと続くと、自転車操業みたいになって、何も生まれないんだよ」
颯太はじっと聞いていたが、意味が分からないようだった。
「俺、よくわかんない。自転車操業って知らない」
「まあまあ、待って。そこでだね──
颯太が弱者たちのために 〈ミツワ未来財団〉 を作ったらどうかなと思うんだよ。どう思う?」
「うん、いいよ。作るよ」
「ただね、これを作るためには資金が相当いるんだよ。
だから颯太が出してくれないと出来ないことなんだよね」
「うん、いいよ出すよ。俺、お金はいっぱいあるもん。いくら出せばいいの?」
「颯太の株式の配当金の……3年分かな?」
「ええ? マジで?」
「うん。でもね、4年目以降の配当金は丸々颯太に残るから、3年間だけ目をつぶってくれたら“すごいこと”が起きるんだよ」
「ふ〜ん、どういうこと?」
俺は紙に図を書きながら説明した。
「まず1億出してくれれば、それで“弱者たちを助ける財団”が作れるんだよ。
で、ここからが本番。
財団に、生家の土地の“本家部分以外”を貸してほしいんだ。
賃料は払うよ。少しだけどね。
そして──
弱者たちのための7階建てのビルを、道路に面して建てる。
予算は約60億。
3回に分けて払うから、颯太なら余裕で払える。
1階には俺のクリニックを入れて、財団の経済を安定させる。
庭に面した小さなコンサートホール──80席くらい。
事務所、受付、相談室、応接室。
ロビーには立花家の美術品を飾って、美術館みたいにする。
ホールには颯太のグランドピアノを置く。
2階は保育室、ベビールーム、リビング、厨房、静養室、ナースステーション。
3階は大浴場、ヒート時の静養室、リビング、ダイニング、厨房。
4階〜7階は弱者たちの個室。
親子で困っている人のための部屋も作る。
最上階は女子専用にする。
それから──
今の家政婦さん達のアパート、古いだろう?
全部建て直したいんだよ。
これは“颯太が家を出た後も、ずっと家を守ってくれたお礼”だよ。
住み込みじゃない人にも1室ずつ使えるようにして、横森さんにも休める部屋を作る。
さらに、デザイナーや建築士が泊まれるゲスト部屋を2室。
植物を育てる温室。
庭道具の物置。
古くなった蔵も建て直す。
最後に──
母屋を減築して、全部建て直して、イタリア風のデザインにする。
そして庭全体を“観光ガーデン”にする。
カフェと、レモン飴を買ったあの“イタリアっぽいショップ”も作る。
こうするとね、仕事がたくさん生まれる。
カフェのスタッフ
ショップのスタッフ
未来ビルのスタッフ(25人くらい)
観光ガーデンの手入れ
警備
そして──
紗奈は社会福祉士になるだろう?
未来ビルで働いてもらう。
香菜は保育士になるから保育ルームで。
碧人君は資格があるから、事務所でリーダーとして働いてもらう。
……話は以上なんだけど、颯太はどう思う?」
「うん、いいよ。やって」
「うん? 本気で言ってる?
この立花家の庭を全部ひっくり返して作り替えるんだよ。いいの?」
「うん、いいよ。庭くらいどうにでもなるでしょう?
先生が全部やって。
俺は配当金を全部出すよ。
だって俺、会長の給料だって全然使わないから余ってるんだもん。
お金は要らないよ」
「颯太!! 愛してるよ!!」
この愛おしい存在を、思わずムギューと抱きしめた。
「ふふ、先生苦しいよ。
それにしても、いつからこの計画を考えてたの?」
「どきっ」
「ぷぷぷ、白状しなさい!」と颯太。
「はい、白状します……。
だってさ、莫大な配当金があれば、多くの困ってる人たちを助けられるんだよ。
勿体ないだろう?
もう2年分は貯まってるはずだから、それだけで未来ビルが建てられる。
しかも無尽蔵に増え続けるなんて……、
貯めるだけじゃなくて、世の中に還元した方が、よほど“ミツワの会長らしい”。
社会からも颯太は大きな評価を得られると思うよ」
「そうなの? 分かった。そうするよ。
そしたら、いつ皆に説明しようか?」
「場所はミツワで、明日だね。
小林さんにも真っ先に話さないといけないし。
山川先生にもいっぱい働いてもらわないといけないしね。
明日、小林さんにミツワに来てもらおうか?
そして上川秘書にも話さないといけない。
これから根回しが大変だよ」
「へえ、そうなんだ。
先生が全部やってね。
俺は自分のことで精いっぱいだからさ」
「おう、任せとけ!」
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