45 / 60

第45話 弱者たちの未来

 その夜、夕食が終わってコーヒーを出した。 颯太は、まだかまだかと息を殺して、じっと俺を見つめている。 その顔が面白いような、言いにくいような……。 「先生、さあ、どうぞ。早く聞かせて」 「あのね、今三人の子を預かってるでしょう? で、小林さんは“今後どんどん増えるだろう”と言って、和室を改築するだけじゃなく、学生寮か社員寮まで探しているんだよね。 まあ10人くらいなら、なんとか仕事をあてがうことは出来るかもしれない。 でも、もし50人とか80人とか来ちゃったらどうする?」 「ええ? まさかそんなに来ないよ」 颯太は笑った。 「こういう人数をただ養うだけだと、税法上の保護はないんだよ。 仕事もそんなに用意できない。 学校も全部うちで出してあげないといけない。 それがずっと続くと、自転車操業みたいになって、何も生まれないんだよ」 颯太はじっと聞いていたが、意味が分からないようだった。 「俺、よくわかんない。自転車操業って知らない」 「まあまあ、待って。そこでだね── 颯太が弱者たちのために 〈ミツワ未来財団〉 を作ったらどうかなと思うんだよ。どう思う?」 「うん、いいよ。作るよ」 「ただね、これを作るためには資金が相当いるんだよ。 だから颯太が出してくれないと出来ないことなんだよね」 「うん、いいよ出すよ。俺、お金はいっぱいあるもん。いくら出せばいいの?」 「颯太の株式の配当金の……3年分かな?」 「ええ? マジで?」 「うん。でもね、4年目以降の配当金は丸々颯太に残るから、3年間だけ目をつぶってくれたら“すごいこと”が起きるんだよ」 「ふ〜ん、どういうこと?」 俺は紙に図を書きながら説明した。 「まず1億出してくれれば、それで“弱者たちを助ける財団”が作れるんだよ。 で、ここからが本番。 財団に、生家の土地の“本家部分以外”を貸してほしいんだ。 賃料は払うよ。少しだけどね。 そして── 弱者たちのための7階建てのビルを、道路に面して建てる。 予算は約60億。 3回に分けて払うから、颯太なら余裕で払える。 1階には俺のクリニックを入れて、財団の経済を安定させる。 庭に面した小さなコンサートホール──80席くらい。 事務所、受付、相談室、応接室。 ロビーには立花家の美術品を飾って、美術館みたいにする。 ホールには颯太のグランドピアノを置く。 2階は保育室、ベビールーム、リビング、厨房、静養室、ナースステーション。 3階は大浴場、ヒート時の静養室、リビング、ダイニング、厨房。 4階〜7階は弱者たちの個室。 親子で困っている人のための部屋も作る。 最上階は女子専用にする。 それから── 今の家政婦さん達のアパート、古いだろう? 全部建て直したいんだよ。 これは“颯太が家を出た後も、ずっと家を守ってくれたお礼”だよ。 住み込みじゃない人にも1室ずつ使えるようにして、横森さんにも休める部屋を作る。 さらに、デザイナーや建築士が泊まれるゲスト部屋を2室。 植物を育てる温室。 庭道具の物置。 古くなった蔵も建て直す。 最後に── 母屋を減築して、全部建て直して、イタリア風のデザインにする。 そして庭全体を“観光ガーデン”にする。 カフェと、レモン飴を買ったあの“イタリアっぽいショップ”も作る。 こうするとね、仕事がたくさん生まれる。 カフェのスタッフ ショップのスタッフ 未来ビルのスタッフ(25人くらい) 観光ガーデンの手入れ 警備 そして── 紗奈は社会福祉士になるだろう? 未来ビルで働いてもらう。 香菜は保育士になるから保育ルームで。 碧人君は資格があるから、事務所でリーダーとして働いてもらう。 ……話は以上なんだけど、颯太はどう思う?」 「うん、いいよ。やって」 「うん? 本気で言ってる? この立花家の庭を全部ひっくり返して作り替えるんだよ。いいの?」 「うん、いいよ。庭くらいどうにでもなるでしょう? 先生が全部やって。 俺は配当金を全部出すよ。 だって俺、会長の給料だって全然使わないから余ってるんだもん。 お金は要らないよ」 「颯太!! 愛してるよ!!」 この愛おしい存在を、思わずムギューと抱きしめた。 「ふふ、先生苦しいよ。 それにしても、いつからこの計画を考えてたの?」 「どきっ」 「ぷぷぷ、白状しなさい!」と颯太。 「はい、白状します……。 だってさ、莫大な配当金があれば、多くの困ってる人たちを助けられるんだよ。 勿体ないだろう? もう2年分は貯まってるはずだから、それだけで未来ビルが建てられる。 しかも無尽蔵に増え続けるなんて……、 貯めるだけじゃなくて、世の中に還元した方が、よほど“ミツワの会長らしい”。 社会からも颯太は大きな評価を得られると思うよ」 「そうなの? 分かった。そうするよ。 そしたら、いつ皆に説明しようか?」 「場所はミツワで、明日だね。 小林さんにも真っ先に話さないといけないし。 山川先生にもいっぱい働いてもらわないといけないしね。 明日、小林さんにミツワに来てもらおうか? そして上川秘書にも話さないといけない。 これから根回しが大変だよ」 「へえ、そうなんだ。 先生が全部やってね。 俺は自分のことで精いっぱいだからさ」 「おう、任せとけ!」

ともだちにシェアしよう!