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第52話 まさかの誤算

 大谷さんは帰り際、「発注分はメールで送りますので、 園芸業者への支払いをお願いしますね」と軽く言い残していった。 その後すぐに、デザインの初期手数料、発注手数料、 そして今後のデザイン料の細かな価格表が届いた。 正直、なかなかの金額だった。 だが──彼女にしか作れない庭だ。 ここは迷うところではない。 さらに、庭を掘り起こす費用、タイルや苗木、土、肥料、薬剤、運搬、人件費…… これらはすべて“未定”。 この調子だと、庭だけで五億は軽く超えるかもしれない。いや、もっとか。 上限を付けなかったのだから仕方ない。 最高のプロに頼むとは、こういうことだ。 ともあれ、デザインの心配は完全に消えた。 その後、会議室に社長や重役たちを集め、 颯太がミツワ未来財団の設立を発表した。 皆、驚きつつも真剣に耳を傾けていた。 山川さんが用意してくれた予算案と事業計画のプリントが配られ、 会議は順調に進むかと思われた──が。 建設部担当の常務が手を挙げた。 「このビルは、いつ頃から着手されますか?」 「出来るだけ早くお願いしたいと思っていますが……何か問題がありますか?」と俺。 常務は申し訳なさそうに眉を下げた。 「実はミツワ建設部は、現在、海外の大型案件と国内の大型案件二つに追われておりまして……。 恐らくすぐの着手は難しいかと。 もし可能であれば、建築プランナーを外部で探していただき、初期設計だけでも進めていただければ、こちらは手が空き次第、着手準備に入れます。 ただ、それでも一年以上は動けないかもしれません。本当に申し訳ありません」 社長が肩をすくめた。 「ああ、そうだったね。じゃあ仕方ない。 颯太会長、外部に頼んでみたらどうですか?」 「はい、分かりました。他を当たってみます」と颯太。 ……俺は、がーーん、だった。 まさかミツワに断られるとは思っていなかった。 大手だから、いつでも動けるものだと勝手に思い込んでいた。 無知だった。 暗い気持ちのまま会長室に戻ると、颯太が言った。 「ねえ先生。浅田工業があるじゃない?あっちにも建設部があるでしょう?」 「よし、夏さんに聞いてみるよ」 すぐに電話した。 「はい、夏です。どうされましたか?」 財団の設立と、七階建てビルの建設を頼めるかどうか尋ねると── 「あ、ああ〜……ええとですね。実は浅田工業の建設部も、今は海外と国内の大型案件で手いっぱいでして……。 この前の菜の花病院の改装さえ受けてもらえなかったんですよ。 でもね、アメリカから心臓外科医の相良先生が来ていて、院長が病室のレイアウトに困ってるって話したら、 なんと弟さんが建築プランナーで、呼んでくれたんですよ。 それで、あっという間にレイアウトが出来て、知り合いの大工さん達も呼んで工事してくれて……一ヶ月以内で完成したんです。 院長がすごく喜んでましたよ。 相良未来さんっていう建築プランナーで、病院や施設が得意なんだそうです。 一級建築士でもあるので、ビルの設計もできます。 ちょっと話してみたらどうですか? 菜の花病院の改装を見学されてもいいかもしれませんよ」 「はい、分かりました。ありがとうございます。北原院長に聞いてみますね」 電話を切った瞬間、俺は椅子に沈み込んだ。 やる気が……消えた。 「先生、どうしたの?」と颯太。 「あのね、浅田工業の建設部も海外と国内の大型案件で手いっぱいなんだって。 多分、一年以上は無理だってさ……」 「ええ、そうなんだねえ。どこも儲けてるんだねえ」 颯太ののんきな感想に、反論する気力もなかった。 俺は、自分が“出来ることだけ”を考えていた。 でも現実は、そんなに甘くない。 まさか、建てる前からこんな壁にぶつかるとは思わなかった。

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