54 / 60

第54話 建築プランナー・相良未来さん

 治療費2千万の話が衝撃で、俺は何しに行ったのか分からなくなった。 なのに今は肝心の病院の仕事をしないで財団の仕事をしている。 これでいいのか?と頭がモヤモヤしてきたので、 北原院長に丁寧にお礼を言って、相良未来さんという方に会うことにした。 俺はミツワに戻って会長室にいた。 そして彼は遠慮がちにニコッとして院長室に入ってきた。 「初めまして。建築プランナーの相良未来です」 自然体で、感じの良い青年だった。 建築家然とした気取りがまったく見受けられない。 「ようこそ。わざわざお越しいただいてすみません。立花陽一です」 名刺を交換した。 彼の名刺の裏には、今まで手掛けた施設の写真がプリントされていた。 彼はパソコンを持って来ていて、早速に広げた。 「ちょっと音声メモを取りながら、お話を伺っていいでしょうか?」 「はい、いいですよ。どうぞ」 「なんか財団を作られたそうですが、 ちょっとそのお話を聞かせていただけますか?」 そして今までの経緯や現在の状態を話した。 それから、未来ビルを作りたいこと。 敷地全部を使ってやり直したいことを伝えた。 この前に山川弁護士が作ってくれたプリントも渡した。 早速目を通しながら、 「ほう~すごいですね。すると、このガーデンは大谷梨々子さんに依頼されたんですか?」 「はい、そうです。高くかかりそうですが、 この計画の中で一番大事なのが、このガーデンだと思っているんですよ」 「うん、なるほど。すると庭の予算の上限はないということですね?」 ぷっと笑った。 「分かります?」 「分かりますよ。上限があったら頼めないですよ」 思わずニヤニヤしてしまった。 「僕もこのデザイナーが、最高の素晴らしいガーデンデザイナーだということは十分承知しています。 特に色に対しての感性が素晴らしいです。どうして立花さんはこの方にしたんですか?」と未来さん。 「なんか、こっちも感覚なんですよ。 有無を言わせない圧倒的な美的空間というのかな? もう他の方の作品を見る必要がないと思うくらい感動しました。 幸いにして資金が潤沢にあるので、 このガーデンが完成すれば、後はどうにでもなるくらいの気持ちですね。 語弊があるかもしれないのですが」 「いや~分かりますよ。それは建築家だったら誰もが思うことですよ。当然です」 すごく同調してくれた。 山川さんのプリントを見ながら、 「大谷さんに建物の外観のデザインも注文されたんですね?」 「そうなんですよ。お客さんが有料で庭を見て感動しているのに、 回りの家が普通では夢が冷めるだろうし、申し訳ないですからね」 「当然ですよ。完璧な発想ですね。素晴らしいです。普通はそこまで考えないですよ。 まあこれは予算も関係してしまうのでね、あまり言えないのですが。 ──ということは、7階建てのビルも、このガーデンを邪魔しないものにしないといけないんですね?」 「そうなんですよ。外観は邪魔しないだけでなくて、 なるべく外壁が汚れないようにしてほしいんです」 「はい、それはいかようにも出来ますので、ご安心ください」 「それで、イタリア風のショップとなっているのですが、 イタリアがお好きですか?」 ふふと笑った。 「実は最近、新婚旅行でイタリアに行きまして、 そこでポジターノのホテルに泊まったんですよ。 で、近くにあるショップがすごく明るくて可愛いし、 店主に名刺をもらったくらいです」 「あ、アマルフィの海岸の有名なホテルにお泊りでしたか?」 「え、分かります?」 「分かりますよ。僕はイタリアを3か月ほど回ったんですよ。 もしかして帰りにナポリピザは召し上がりましたか?」 ぷっと笑った。 「分かります?」 何この人。まるで見ていたようじゃないか? 「分かりますよ。カフェをやるということは、 ナポリピザも再現して出したいということではないですか?」 あまりに当たり過ぎて、思わず頭を抱えた。 「もしかしてここに行かれましたか?」と未来さん。 彼は携帯の写真をずっとスクロールしていた。 そして差し出した写真は、まさにあのレモン飴を買った店だった。 なんだかすべて心を読まれているようで、こわい……。 「まさにその店で名刺をもらったんですよ」 「名刺ってこれでしょう?」と、さらっとその写真を横にめくると、確かに同じ名刺だった。 「え?なんでここまでされたんですか?」 これからは俺が聞く番だよ。 「イタリアに行って感動される方は多いんですよ。 当然、名所や高級ホテルに行ってインテリアに感動する方も多くて、 再現したいとおっしゃる方も過去にはあったんです」 「ほう、それでどうなったんですか?」 「家具類を輸入して揃えたくなるんですけど、 座ってみると足の長さが日本人と違うので、浮いてしまう場合があるんですよ。 横幅も大きいですしね。 立花さんは高身長でいらっしゃるので、ご不便は感じなかったかもしれないのですが、 女性やシニアの方だと足が浮いて使いにくいし、座り心地が悪いんですよ」 そうなんだ。全然気が付かなかった。 小柄な颯太はどうだったのかな?

ともだちにシェアしよう!