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第54話 建築プランナー・相良未来さん
治療費2千万の話が衝撃で、俺は何しに行ったのか分からなくなった。
なのに今は肝心の病院の仕事をしないで財団の仕事をしている。
これでいいのか?と頭がモヤモヤしてきたので、
北原院長に丁寧にお礼を言って、相良未来さんという方に会うことにした。
俺はミツワに戻って会長室にいた。
そして彼は遠慮がちにニコッとして院長室に入ってきた。
「初めまして。建築プランナーの相良未来です」
自然体で、感じの良い青年だった。
建築家然とした気取りがまったく見受けられない。
「ようこそ。わざわざお越しいただいてすみません。立花陽一です」
名刺を交換した。
彼の名刺の裏には、今まで手掛けた施設の写真がプリントされていた。
彼はパソコンを持って来ていて、早速に広げた。
「ちょっと音声メモを取りながら、お話を伺っていいでしょうか?」
「はい、いいですよ。どうぞ」
「なんか財団を作られたそうですが、
ちょっとそのお話を聞かせていただけますか?」
そして今までの経緯や現在の状態を話した。
それから、未来ビルを作りたいこと。
敷地全部を使ってやり直したいことを伝えた。
この前に山川弁護士が作ってくれたプリントも渡した。
早速目を通しながら、
「ほう~すごいですね。すると、このガーデンは大谷梨々子さんに依頼されたんですか?」
「はい、そうです。高くかかりそうですが、
この計画の中で一番大事なのが、このガーデンだと思っているんですよ」
「うん、なるほど。すると庭の予算の上限はないということですね?」
ぷっと笑った。
「分かります?」
「分かりますよ。上限があったら頼めないですよ」
思わずニヤニヤしてしまった。
「僕もこのデザイナーが、最高の素晴らしいガーデンデザイナーだということは十分承知しています。
特に色に対しての感性が素晴らしいです。どうして立花さんはこの方にしたんですか?」と未来さん。
「なんか、こっちも感覚なんですよ。
有無を言わせない圧倒的な美的空間というのかな?
もう他の方の作品を見る必要がないと思うくらい感動しました。
幸いにして資金が潤沢にあるので、
このガーデンが完成すれば、後はどうにでもなるくらいの気持ちですね。
語弊があるかもしれないのですが」
「いや~分かりますよ。それは建築家だったら誰もが思うことですよ。当然です」
すごく同調してくれた。
山川さんのプリントを見ながら、
「大谷さんに建物の外観のデザインも注文されたんですね?」
「そうなんですよ。お客さんが有料で庭を見て感動しているのに、
回りの家が普通では夢が冷めるだろうし、申し訳ないですからね」
「当然ですよ。完璧な発想ですね。素晴らしいです。普通はそこまで考えないですよ。
まあこれは予算も関係してしまうのでね、あまり言えないのですが。
──ということは、7階建てのビルも、このガーデンを邪魔しないものにしないといけないんですね?」
「そうなんですよ。外観は邪魔しないだけでなくて、
なるべく外壁が汚れないようにしてほしいんです」
「はい、それはいかようにも出来ますので、ご安心ください」
「それで、イタリア風のショップとなっているのですが、
イタリアがお好きですか?」
ふふと笑った。
「実は最近、新婚旅行でイタリアに行きまして、
そこでポジターノのホテルに泊まったんですよ。
で、近くにあるショップがすごく明るくて可愛いし、
店主に名刺をもらったくらいです」
「あ、アマルフィの海岸の有名なホテルにお泊りでしたか?」
「え、分かります?」
「分かりますよ。僕はイタリアを3か月ほど回ったんですよ。
もしかして帰りにナポリピザは召し上がりましたか?」
ぷっと笑った。
「分かります?」
何この人。まるで見ていたようじゃないか?
「分かりますよ。カフェをやるということは、
ナポリピザも再現して出したいということではないですか?」
あまりに当たり過ぎて、思わず頭を抱えた。
「もしかしてここに行かれましたか?」と未来さん。
彼は携帯の写真をずっとスクロールしていた。
そして差し出した写真は、まさにあのレモン飴を買った店だった。
なんだかすべて心を読まれているようで、こわい……。
「まさにその店で名刺をもらったんですよ」
「名刺ってこれでしょう?」と、さらっとその写真を横にめくると、確かに同じ名刺だった。
「え?なんでここまでされたんですか?」
これからは俺が聞く番だよ。
「イタリアに行って感動される方は多いんですよ。
当然、名所や高級ホテルに行ってインテリアに感動する方も多くて、
再現したいとおっしゃる方も過去にはあったんです」
「ほう、それでどうなったんですか?」
「家具類を輸入して揃えたくなるんですけど、
座ってみると足の長さが日本人と違うので、浮いてしまう場合があるんですよ。
横幅も大きいですしね。
立花さんは高身長でいらっしゃるので、ご不便は感じなかったかもしれないのですが、
女性やシニアの方だと足が浮いて使いにくいし、座り心地が悪いんですよ」
そうなんだ。全然気が付かなかった。
小柄な颯太はどうだったのかな?
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