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第56話 建築家・相良未来さんに決定

 生家に着くと、未来さんはやはりきょろきょろしていた。 小林さんが玄関で待っていた。 リビングに入ると、家政婦さん達がすぐにお茶を淹れてくれる。 全員に揃ってもらい、未来さんを紹介した。 「わー、さすがですね。一体何人の方がこの家で働いていらっしゃるのですか?」 「内訳は、私が執事で、家政婦が4名、運転手が1名です。 住み込みは私と家政婦2名、それから運転手です。他は通いになります」と小林さん。 皆さん、なんだか恥ずかしそうに微笑んでいた。 「はあ……なんというか、圧倒されました。この家、本当に広いですねえ」と未来さん。 「そうなんですよ、広すぎるので減築したいんです。 今預かっている子供達や、これから助けを求めて来る子達もビルの個室に入れてあげたいんですよ」 「そうですか。立派な財団をお作りになられたんですねえ」 なんだかくすぐったかった。 小林さんが静かに言った。 「そうなんですよね。実は私も青天の霹靂でした。 この屋敷の土地を全部使って社会事業にする、という発想がありませんでした。 私は小さい頃から先代にお世話になっているので、 ただ立花家の財産を守り、家を守ることしか考えていなかったのです。 確かに、財産を守るだけでは誰も助けられないんですよね。 私もようやく気づくことが出来ました」 俺は申し訳なくて涙が出そうだった。 「小林さん、本当に申し訳ありません」 心からお詫びをした。 「いえいえ、いいんです。先生のお陰で、今更ながらに困った方々を助けることが出来るようです。 先代も喜んでいらっしゃることでしょう」 そこへ颯太から電話が来た。 「何か急用だったの?」 「今、生家にいて、建築プランナーの方に土地をご案内するところなんだけど、颯太はどうする?」 「じゃあ俺も行くから、由紀さんにお昼ごはん頼んでくれる?」 「うん、分かった」 「そうだ、そろそろお昼ですね。由紀さん、 今颯太がこちらに来ますので、お昼をお願いしたいそうです」 「はい、承知しました。皆さんの分もご用意しますので、もう少々お待ちくださいませ」 「未来さんはまだ時間大丈夫ですか?」 「はい、大丈夫です。僕まで申し訳ないですね」 「いえいえ。では、家の中を全部ご案内しましょうか?」 「はい、ぜひお願いします」 俺と未来さんと小林さんで2階を見て回った。 1階に降りてくると、青年たちの部屋や大広間、風呂、トイレなどを見て回った。 「広いですねえ~。これ、300坪はありますよね?」と未来さん。 「はい、そうです。昔は毎日お客さんが多くて大変でした」と小林さん。 「へえ、そうなんですね」 今後、預かる子が増えることを見越して、 和室2つを小分けして洋室に変更し、 台所やバスルーム、トイレを増設する計画を小林さんが説明した。 「あー、ちょっと待ってください。もう発注しちゃいました?」と未来さん。 「いえ、まだです」 「ああ、よかった。僕の感じだと、それは無駄になるかもしれないんですよ。 プリントを見せていただいて、あとで話そうと思っていたんですが…… 優先順位が家政婦用のアパートからでしたよね? それだとセキュリティがダメになっちゃうんです」 「もっと詳しく聞かせてください」と俺。 「はい。優先順位は、本家と蔵を先にした方がいいです。 これは駐車場の兼ね合いとセキュリティの観点からです。 まず正面玄関前の外壁を壊して作り直します。 全部を広げて、駐車場を10台以上、SPの待機所、そして蔵ですね。 その間、本家の皆様にはマンションやホテルに住んでいただくことになります。 出来上がったら、周囲を柵で囲います。この柵については大谷さんと相談します。 場合によっては二重柵も考えられます。 そして入居前にセキュリティ検査をします。 ……そうだ、ここは地下がありますか?」 「はい、一部ですがあります」と小林さん。 「さすがですね。ご先祖様は偉いです。地下が大事なんです。 こういう大きな家は、大災害の時に狙われやすい。 地下はシェルターになりますので、なければ作った方がいいと思っていました」 ふう……みんなのため息が聞こえた。 ふふ、なんだかみんなで笑った。 「小林さん、未来さんに全部お願いしましょうか?」と俺。 笑って「本当ですね。力強い味方のようですよ」と小林さん。 そこへ颯太が帰ってきた。 「ただいまー」 「紹介しますね。立花家の当主になります。俺の妻の颯太です」 「初めまして。颯太です。よろしくお願いします」 「初めまして。建築プランナー兼、一級建築士の相良未来と申します。どうぞよろしくお願いします」 「え?未来さんなんですか?ミツワ未来財団なのに?」 皆で笑った。確かにそうだ。 「颯太、今回の財団のプロジェクトを全部、相良さんにお願いしようと思うんだけど、どうかな」 「うん、いいよ。任せる」と颯太。 「そういう事なので、未来さん。全部お願いしますね」と俺。 「はい、承知しました。全力で取り組みます。どうぞよろしくお願いします」 未来さんは心なしか、肩の力が抜けたようなホッとした表情だった。

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