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第61話 碧人サイド・スカウト
今日も陽菜の病院に行く。
陽菜がだんだん良くなってきて、本当にうれしい。
声も少しずつだが出るようになったし、何よりも表情が明るい。
陽菜ってこんなに明るい顔をした子だったっけ?
幼馴染なのに、今頃そんなことを思うなんてね。自分で笑うよ。
「ひ・な!」
病室に入ると、片手をあげてニコッとした。
可愛いなあ。将来の俺の嫁さんだ。
「今日の調子はどう?」
OKマークを指で作って返事してくれた。
「あと何年待てばいいの?」とタブレットに書いて見せてくれた。
「ええ?もう催促か?陽菜は気が早いな」クク……。
そう言うと、ぷーとふくれた。
そのほっぺを両手の人差し指で、プシューと押しつぶしてやった。
二人でくすくすと笑う。
そこへドアをノックされた。
院長先生だった。
「あれ?先生、どうかされたんですか?」
「うん。碧人君に良い話を持ってきたよ」
「ええ?なんだろう?」ニタニタしてしまった。
「あのね。碧人君は卒業まであと3年だろう?」
「はい、そうです」
「どこか、どうしても行きたい就職先はあるの?」
「いや~特に、まだ何も考えていないんですよねえ。
教師だと結構勤務場所が指定されてしまって、自由に選べないみたいなんですよ」
「ふ~ん。実は今回、ミツワ未来財団というのを、うちの颯太が作ったんだ。
それで生家の土地を全部壊して、7階建てのビルや観光ガーデンを作るんだよ。
他に温室や物置、庭仕事をする人の休憩所、
家政婦さんのアパートに、蔵や本家も減築して建て直すんだよ」
「え?すると俺はそこで出て行かないといけないんですよね?」
「だ~め。それは身柄を確保するから」
「はあ?」どういうこと?ちょっと笑った。
「住む場所はまだ分からないんだけど、
ミツワ未来財団に就職してほしいんだよ。つまりスカウトに来たんだ」
「え?俺をですか?」すげえな──俺。
「うん、どうかな?正式な職員として、
ミツワに近いくらいの待遇にするから来てくれない?」
「どういう財団なんですか?」
「社会的な弱者を助けようという財団なんだよ。
観光ガーデンやカフェ、ショップなども作って、
その人たちの働き場所にしようと思ってるんだ。
やはりオメガの人はヒートになるとクビになる人が多いだろう?
だからうちで働けば、クビなんて絶対にしないんだよ。
むしろ守る財団なんだからさ」
「その7階建てのビルは、
1階がクリニックと80席の小ホール。
2階は眼科。会議室他。
3階は保育園とベビールーム。
4階は個室の住人のダイニングやリビング、
大浴場に厨房、そして緊急用の個室は4室かな。
5階~7階までが個室だ。
逃げてきた人や、立ち直れない人、
子供を抱えて生きていけない人、
陽菜ちゃんのようにおうちにいるのが辛い人たちだね。
だから陽菜ちゃんもこのビルに住んでいいんだよ。
部屋を取っておくからね」
「うん」とにっこりしていた。いいなあ~。
「へえ、それで俺はどこで働くんですか?」
「1階の事務室だね。
小林さんは財団の事務局長。
碧人君は働く人たちのリーダーだね。
ホールの仕事や販促、宣伝、
困った人からの相談。
いっぱいあるよ。
一応週休二日制にするし、
ボーナスもあるし、退職金や福利厚生も整えるつもりだ。
できるだけミツワに近い待遇にしようと思う。
どうかな?
まだ3年も先の話なんだけどね」
思わずにんまりとしてしまった。凄すぎるよ!
今から就職が決まるなんて──しかも最高の企業だ!
「俺でいいんですか?あとでキャンセルはナシですよ」
「もちろんだ。すでにガーデンデザイナーや設計士には契約金の一部を払ったから、
今更ナシになんてならないよ。大金だからね。
それに財源はミツワの当主の颯太だけだから、資金は潤沢だ。心配しなくていいよ」
「はい、では喜んで。よろしくお願いします!」
俺は勢いよく頭を下げた。
「うん、こちらこそ頼りにしているから、よろしくお願いしますね」と先生。
固く握手した。
陽菜ちゃんがわーっとパチパチ拍手をしてくれた。
陽菜がめっちゃ嬉しそうだったなあ……。
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