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第63話 蔵を美術館に

 土曜日。俺と颯太は無事にご近所のあいさつ回りを終えた。 めっちゃ疲れた……。 もう颯太もぐったりだよ。 「先生、俺もう無理。お昼寝するから2階に連れてってえ~」としなだれかかってきた。 息が止まった。 皆が見てるんだよ。里奈ちゃんもぽかんと見ていた。 しょうがないので、抱えるように2階へ行った。 全く恥ずかしいだろ。ここは実家じゃないんだぞ。 2階のベッドに寝かせたら、俺もどっと疲れが出た。 一緒に寝たいところだけど、本家ではそうもいかんだろう。全く……。 下に降りると、また皆が俺を見る。 「何か御用ですか?」と言うと、みんながあっちこっち向いてくすくす笑っていた。 「先生、颯太さんってすごく甘えんぼさんなんですねえ。いいなあ~」と佐倉里奈ちゃん。 今度は皆が爆笑した! もう恥ずかしい。両手で顔を覆った。全く......。 はーもうやだ。 それから昼食を済ませた。 ここで上に行って寝たらまた笑われる。それも悔しい。 本家住まいになったら、この辺は考えないといけない。 そこへ未来さんから電話が来た。 「はい、なんかありました?」 「蔵の件なんですが、あれは井戸の方に移築します。 そして本家の横には新たに蔵を建てます。 で、その間の中身はミツワさんに預かってもらうと良いですよ。 空調が利いてるし安全です。 あと、本家を減築したら、食器はそんなにいらないんじゃないかと思うんです。 で、蔵を移築したら、その中を美術館のように、立花家の歴史の展示室にしたいんです。 ずらっと食器や漆器に大皿ですね。酒器や正月用品もいいですよ。 そういうものをガラスケースの中に入れて、展示するスペースにしようと思うんですよ。 ですので、それまでに蔵と食器類を整理しておいていただけませんか? なるべく早く蔵を空っぽにしてほしいんです。 蔵の本体はなるべく早くクレーンでつるして、井戸の近くに移築します。 ではよろしくお願いします」 それでサッサと切れた。 「え??」 「何ておっしゃってるんですか?」と小林さん。 「未来さんからで、蔵をクレーンでつるして井戸のそばに移築するそうです。 それでその内部を美術館のようにしたいんですって。 ガラスケースに食器や大皿、漆器、酒器に正月用品などを入れて展示し、 立花家の歴史を見せるそうです。 だから蔵の中身は整理してミツワに預けて、早く空にしてほしい。 そして本家の食器も整理して、飾ってもいいそうです」 「あら、大変だわ、小林さん急がないといけませんね」と由紀さん。 「そうだ、ゆっくりしていられない。皆さん手伝ってください。 まず蔵の食器や大皿、漆器類を全部出して、ここへ持って来ましょう。 そしてきれいにして保護して、蔵の展示室に入れるものを調べましょう。 あ、待って!それぞれ写真を撮って、種類別に並べましょう。 そして展示するものと仕舞うものを分けて、目録を作らないと駄目です。 あーこうなったら段ボール箱に入れて、運べる状態にして、箱に番号を振らないといけないなあ。 里奈ちゃんも手伝ってください。 台所の食器も整理しないと駄目ですね」と小林さん。 「はーい」と一斉に声が上がったが、俺は何をすればいいんだ? 「じゃあ、俺ちょっと着換えてきますね」 また「はーい」と返事がきて、俺は2階に上がった。 スーツを脱いで、汚れてもいい服に着替えないと駄目だ。 くそー!気持ちよさそうに眠っている颯太が恨めしいよ。 疲れた身体に鞭打って、 小林さんが出した食器や埃まみれの木箱を、言われるがままに蔵から本家に運んだ。 こうなったらバケツリレーだよ。 しかし、埃を吸いっぱなしで、鼻がおかしくなりそうだった。 「すみませんが、タオルとマスクをいただけませんか?」 「はい、お持ちしますね」と持ってきてくれて、小林さんにも渡してくれと頼まれた。 タオルを頭に巻いてマスクだ。ふう……。 他の家政婦のマツさんや、良子さん、真知子さんもどんどん運んだ。 リビングにシートを敷いて並べていくと、それは豪華で壮観な景色になった。 凄いの一言だ。確かに美術館並みじゃないか。 未来さんは見ていないのに、なんでわかったんだろう。 その作業は簡単には終わらなかった。 目録は作ってあるんだけど、展示品として並べるものは、 別に作らないといけないので全部やり直すそうだ。 ああ~もうダメだ。 ソファにもたれかかっていたら、 マツさんが「冷たいお汁粉はいかがですか?」と持ってきてくれた。 「え?うれしいー!」と叫んだ。 可愛い白玉も入っていた。 もう超うまいよ~。 そこへ2階から颯太が降りて来た。 「あ、お汁粉だ。俺にも頂戴!」 「はい、お持ちしますよ」とマツさん。 俺は食べながら無邪気な颯太を、恨めしそうに見つめていた。 「先生、なんか俺に恨みでもあるの?」と颯太。 皆が爆笑した。 もう返事する気力なし。ひたすらお汁粉を食べた。

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