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第70話 颯太の新曲
疲れて実家に帰ってきた。
結局ここが一番ほっとする。
そして小林さんのお陰で診療をしなくて済む。
本当にありがたい__肩の力が抜けたよ。
「先生、大丈夫?すごく疲れた顔をしているよ」
「うん、何とか大丈夫だよ」
「あのね。俺今日、新曲を貰ったんだよ。
すごく素敵な曲で、作曲は前にもらったことがある森戸由貴さん。
作詞家は木内真亜子さんなんだ。素敵でしょう?」
「うん、そうだね。もう歌ってみたの?」
「うん、今日歌ってみたんだ。夏さんや桐生社長がすごく喜んでくれたんだ」
「へえ、すごいねえ。ね、もしかして、キーボード弾きながら歌ってくれる?」
「えへへへ、いいよ。先生の為に歌うよ」
そしてキーボードの前に座った。
美しい前奏のメロディーが流れて来た。
♪君の名前を呼ぶたびに
胸の奥で風が揺れる
触れられそうで触れられない
光のような距離のまま♪
颯太の高い澄んだ美しい声が響いた。
なんて素敵なんだろう?
一日の疲れが飛んで行った。
そして静かに終わるとそばに行って抱きしめた。
「颯太、素敵だったよ。本当に良かった。ヒット間違いなしだね」
そこへピンポ〜ンとチャイムが鳴った。
あいた……来ちゃったな。
「ちょっと出て来てよ。ズルいよ!」と大きな声が。
「あれ?楓の声だ、なんでいるんだ?」
下に降りていくと、家族全員が揃っていた。
「何?なんでみんな揃ってるの?」
へへへとみんなが笑っていた。
「今日は母さんの誕生日だよ。だから皆でお祝いをしていたんだよ」
「あーーーっ!忘れてた。母さん、ごめんなさい」
「ふふふ、いいわよ。どうせそんなことでしょうよ。
でも颯太が歌を歌ってくれたら、最高のプレゼントよ〜」と母。
「お母さん、すっかり忘れててごめんなさい」と颯太。
「いいのよ、さあさ、みんなで聴きましょう!」と母が言うと、
ドヤドヤとうちの中に入って来ちゃったから、もう座る場所もないよ。
紀子さんや友則さんも一緒だからな。
しょうがない。
「じゃあ、お母さんお誕生日おめでとうございます。
今日は出来たばかりの新曲を歌います。
曲は『透明な恋』です。聴いてください」と颯太。
そして先ほどの曲を歌い始めた。
サビがすごく素敵なんだよね。
♪透明な透明な恋が僕を包む
君の影を追いかけて
届かないままでもいい
君を好きでいられるなら〜♬
3番まで歌うと、皆で盛大な拍手が送られた。
ふふ、幸せな夜だ。
歌が終わると、持ってきてくれたワインを注ぎ、皆で乾杯した。
紀子さんや友則さんと会うのも久しぶりだ。
「兄さん、忙しいんだろう?財団なんて作っちゃってさ」と淳一。
「そうなんだよ、毎日が死にそうだよ。
3年くらいしたら出来ると思うから、クリニックを手伝ってくれよな」
「はーい。良いよ。週に2回の午後ならいいよ」と楓。
「俺も週に2回だけね」と淳一。
「うん、本当にありがとうね、うれしいよ」
「先生、良かったね」と颯太。
「財団は今どこまでやってるんだ?」と父から聞かれた。
それで今日までに決まったことを説明した。
「ふえ〜、マジか?それ全部やろうとしてるの?」と淳一が驚いていた。
「そうだよ。颯太が気前よく資金を出してくれるからさ、俺も精一杯やってるんだよ」
「そうだ、陽一ならできるよ」
父がそう言ってくれたから、思わず涙ぐみそうになった。
「先生に任せっぱなしでごめんね」と颯太。
「いいんだよ。これは社会事業だから、出来るまでが一仕事だからね。
出来てしまえば、あとは何とかなるさ」
「兄さんって偉かったんだねえ〜」と楓。
「そうですよ、本当になかなか出来ないことですよ」と友則さん。
ふと笑った。
「ありがとうね。せいぜいガーデンを見て、雑誌を買って、
ついでにカフェで食べて、エステでもやりに来てくれたらうれしいよ」
「はは、それフルコースだね」と淳一が笑っていた。
「淳ちゃん、私ちょっとエステに行ってみたい」と紀子さん。
「あらあ、私も行きたいわよ。楓もたまには行きなさいよ」と母。
「うん、行っておいで、そして可愛くなっておいで」と友則さん。
照れまくる楓。うわ〜甘いなあ〜。
みんなでダラ〜としてしまった。
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