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第71話 社長へのお願い

 取得できた土地のうち、裏手の110坪については保留にした。 まだ時間がある。 この近辺の家から「売りたい」という相談が来るかもしれないからだ。 広報スタッフからは、驚くほどフレッシュな提案が次々と出て、 必要なスタッフ数も大体見えてきた。 山川弁護士は、財団の正職員の福利厚生のために、 「ミツワの関連会社にしてもらえないか」と社長にお願いするつもりだという。 だから広報スタッフについても、 「その時に一緒にお願いしてはどうですか?」 と助言を受けた。 そして時間をいただき、 颯太と俺、山川弁護士、上川秘書の4人で社長室を訪れた。 社長はにこやかに迎えてくれた。 「また揃って、今度は何ですか?」 俺は深く頭を下げた。 「実は、財団の建設予定や活動内容、必要スタッフ数がまとまりました。 今日はご報告と……お願いがあって参りました」 「へえ。じゃあ先に報告書を見せてもらおうか」 社長はページをめくりながら、じっくり読み込んでいく。 「随分大掛かりになったね。大丈夫なの?こんなに広げて……」 「はい。多額の資金がかかっていますが、 回収のため、そして自然に増えていく未来を見据えました。 それに、このフレッシュなアイデアの数々は、 ミツワ広報スタッフの皆さんに知恵を借りました。 本当に有能で、仕事が早く、情熱がある。 もう手放したくありません」 俺は姿勢を正し、深く頭を下げた。 「お願いです。 今の広報スタッフ5人全員を、財団で働けるようにしていただけないでしょうか。 颯太の音楽関係の仕事も、財団の事業の一つとして続けたいんです。 どうか……お願いします」 社長は「はは」と笑った。 予想していたような、そんな表情だった。 「そんなに有能だったの? 今までそういう話は聞こえてこなかったけどねえ。 才能が眠っていたのかな。 ──加納課長と人事部長を呼んで」 上川秘書がすぐに動き、 広報の加納課長と人事部長が社長室に入ってきた。 「お待たせしました。お呼びでしょうか?」 社長は軽く報告書を掲げて言った。 「立花先生がね、財団の仕事に広報スタッフ5人を全部ほしいんだって。どうしよう?」 「は? 全員ですか?」 加納課長が目を丸くした。 「5人全員となると……あとが大変ですね」 人事部長も眉を寄せた。 俺は小さくなって成り行きを見守った。 社長は腕を組んで言った。 「立花先生がここまで言うなら、ミツワとして応援したい。 でも広報はどう? 新人を採用すれば回るの?」 「いえ……新人一人では無理です。 取材も多いですし、電話番は私がするとしても、動ける人が足りません」 加納課長が正直に答えた。 社長は軽く頷いた。 「じゃあ、こうしよう。 広報を2名採用する。 その2名を、今の5人が責任を持って育てる。 財団が出来るまで3年はかかるだろうし、引継ぎに1年あれば十分だ。 困ったら財団の5人にヘルプすればいい。 居場所が変わるだけで、ミツワの社員であることには変わりない。 双方で臨機応変に動けばいいよ。 どうせ5人とも行きたがってるんだろう? 目に見えるようだよ」 社長が笑うと、 俺も思わず頬が緩んだ。 「承知しました。では加納君、広報に2名採用しましょう。 引継ぎは1年。その後は財団の仕事を中心に、 必要に応じてミツワの広報も手伝ってもらいます」 人事部長が決定した。 「はい、かしこまりました」 加納課長も深く頭を下げた。 社長は続けた。 「あとは関連会社への変更ね。いいでしょう、認めます。 ミツワの社会事業だし、颯太名誉会長には最大限協力するよ。 ところで、事業資金はどう? こちらからも応援しようか?」 「ありがとうございます。 実はリストにしましたので、現物でお願いできないでしょうか。 すべて“ミツワ”の文字を入れます」 社長はリストを見て、目を細めた。 「シャトルバス1台、社用車1台、 コンサートホールの椅子100席、 折り畳み会議テーブル14台、 ガーデンそばのベンチ数台、 医師用にホテルの部屋を2室……なるほどね。 いいでしょう。 あとで追加が出ても構わないよ」 「本当に……何から何まで、ありがとうございます」 俺は深く頭を下げた。 颯太も、胸に手を当てて言った。 「社長、お世話になってすみません。 本当にうれしいです。 今後ともどうぞよろしくお願いします。 心から感謝しています」 社長はにっこり笑った。 「頑張って下さい。期待してるからね」 本当にありがたいことだ。 胸が熱くなった。

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