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No.7:ユウシ「11人の監視役たち」

【6月12日 16:00・サンデリアナ号船内】 6階のピアノバーを使って行われているワークショップを、視察に行った。 受講者リストの中に「青山トモイ」の名前があったからだ。 架空の新商品に対して、どのようなアプローチでSNSを運用すべきか、というテーマらしい。 三つのグループに分かれ、ディスカッションが行われている。 顔写真一枚の情報しかなかったが、幸い、互いに意見を出し合うため皆が名札をつけており、どれが彼なのか迷うことはなかった。 (なるほど。写真の通り随分と綺麗な男だ。カイリ様が好きそうではあるな) 同じグループには「正田アラタ」もいた。 私がトモイの監視を依頼した男だ。 この男のことも初見だった。 なにしろ、トモイの乗船が決まったのは急だったから、知り合いを通じ監視役ができそうな人物を見繕ってもらったのだ。 ディスカッションで、トモイは自ら積極的に発言したりはしないが、投げかけられれば、きちんと返答をしている。 その意見を聞く限り、聡明な男なのだろうと思えた。 私が意図を持って選び、この船に乗せた人物が10人いる。 彼らには、アラタのような監視役をそれぞれつけて、異変がないか観察中だ。 この10人に本命はいるのか、否か。 それとも「子どもスキー教室」のリストには名が無かったが、急遽追加することになったトモイが本命なのか……。 私はその場でスマホを取り出し、監視役11名に、メッセージを一斉送信する。 『18時に、10階10107号室へ来てください』 視界の中にいるアラタが、テーブルに置いていたスマホの振動に気が付き、チラッと目を向けたのが分かった。 私はそっと息を吐き、ピアノバーを出た。 — カイリ様が探している匂いについて、五年前、一度だけ詳細を聞いたことがある。 聞いたというか、めずらしくワインを飲み過ぎた彼が、独白するのを受け止めたのだ。 カイリ様は17歳のとき、鉄橋崩落事故により両親を亡くされた。 私はその頃大学生で、城井財閥の一家が巻き込まれたその悲惨な事故のことは、はっきりと記憶に残っている。 報道は、死者多数の中、二名が救出されたと発表し、その後、一名は搬送先で亡くなったと伝えた。 その二人のうち一人がカイリ様、もう一人が、流れ出る血液からオメガの匂いを放っていた少年だという。 カイリ様は彼が亡くなったことが信じられないと、泣いた。 別々の救急車に乗るため引き離されるまで、彼は温かく、心臓はトクトクと正確に動いていたのに、と。 その涙を見た後から、私は鉄橋崩落事故のことを、陰ながら調べるようになったのだ。 亡くなった少年がオメガだということは、SNSで噂になったようだが、マスコミでそれを書いている記事はない。 そもそも、オメガだということは、秘匿されるべき事柄で、下劣な週刊誌でもそこには触れないだろう。 SNSで噂されたことだって、もしその少年が助かっていた場合、アルファに襲われるなどの生き辛さに繋がったかもしれない。 そんな考えから、可能性の一つとして、その少年は実は生きているのに、亡くなったことにして守られたのではないか、という発想が浮かんだ。 カイリ様には言えないが、財閥の力を使い、ありとあらゆる手を尽くし事故を調べた。 そして少年が、あるホテルの「子どもスキー教室」に参加した帰りに事故にあったらしい、ということを突き止めた。 だから、このとんでもない豪華客船の話が持ち上がったとき、企画そのものに反対しながらも、あのときの少年かもしれない男を、船に乗せたいと行動に移した。 つまり今回私が乗せた10人は、全てがスキー教室の参加者。 あの事故の三日前、二日前、一日前に参加していた者のリストから、カイリ様より年下の男を選び出し、このクルーズに、できるだけ自然な形を装って招待したのだ。 ただ、トモイだけは違う。 どこからか私の行動を嗅ぎ取った橋爪と名乗る男が、突然連絡をしてきた。 「あのリストから意図を持って削除された少年がいます」と彼は告げた。 それが出航の二日前の出来事だったから、橋爪がもたらした情報の信憑性は分からない。 でも、トモイのために枠を空け、クルーズへと招待した。 ここから先は、カイリ様が選び取ることだ。 もしも本当にオメガの少年が生きていて、もしも本当に「運命」というものがあるのならば、カイリ様は探し出すことができるだろう。 しかし、見つけられないのならば、それまでの話である。 (本音では、もしその少年が生きているのであれば、何としてでも会わせてあげたい。あの人は強がっているけれど、寂しがりだから……運命の番を見つけ幸せになってほしい) — 18:00になり、11名の監視者が私の部屋へ集まってきた。 彼らに横の繋がりはなく、初めての顔合わせとなる。 「どうですか?何か「異変」はありませんか?」 皆に投げかける私に、アラタが挙手をし話し始める。 「「異変」とは具体的にどういうことを指しますか?」 「具体例を挙げると、それに囚われてしまいますから、申し上げられません」 「例えば、俺の監視対象は料理が「甘い」と言っていました。そういうことも含みますか?」 「ほー。それは面白い。えぇ、そうですね。そういうこともメッセージにて知らせてください。私が貴方達をこのように集合させることは、これきりだと思います。どうか、異変を見逃さないよう、よろしくお願いします」 (明日から少しずつ、物事が動き出すだろう)

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