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No.13:ユウシ「裏で動き回る」
【6月14日 07:00・スタッフルーム】
カイリ様はまだ眠っているようだが、私は朝早くから動き回っている。
まずはコック長と打ち合わせを行なった。
「選別は第二フェーズに入りました。昼食からは、アッパーデッキで提供する飲食以外、全て抑制剤が混入された通常の水を使用してください。ハーブの添加も、同じくアッパーデッキでのみ行います」
「承知しました。ということは、城井財閥さんのスタッフ、講師の方々、またうちの乗組員もレストランやカフェを使用可能にしていいですね?」
「はい。ここまでは選別とは無関係の従業員レストランのみ使用ということで、皆さんには窮屈な思いをさせましたが、解禁してください」
「それで、アッパーデッキのお食事は何人分ご用意いたしますか?」
「カイリ様以外に21名です。彼らの食事には、今までよりハーブの添加を強めてください」
コック長は、一瞬躊躇いを見せる。
しかし、もう後戻りは出来ないとわかっているのだろう。
コクリと頷いた。
次に船医へ報告に行く。
「オメガは一般的な比率通り1000人中21名でした。ヒートによるパニックに備えて、鎮静剤および、即効性のある抑制剤が注射できるよう備えてください」
「本当にヒートを起こさせるまで、やるのですね?」
「えぇ。謝礼は弾みます」
「……鎮静剤は記憶の混濁を招くものを用意しています。あくまで本人には、オメガによるヒートが起こったとバレないように下船させる。そこを重視しています」
「頼りにしていますよ。先生」
その言葉に船医は顔を歪めたが、コック長と同じく多額の借金がある彼に、他の選択肢はないだろう。
—
次に、船内に掲示する21人のリストをPCで作成した。
個人情報を隠すため、名刺交換会にも使った整理番号で発表することになっている。
もちろん「オメガだから選ばれた」などとは公表しない。
表向きは、二日目夜に行ったテストによる結果から、選ばれたことになっている。
それにしても、私が選出し乗船させた11人のうち、オメガは青山トモイただ一人だった。
他の10人は、あの鉄橋崩落事故の直前に子どもスキー教室に参加していたものの、無関係だったわけだ。
彼ら10人、そして彼らにつけた監視10人には、ここから先、ただただ豪華客船の旅を楽しんでもらえばいい。
となると、橋爪社長が言っていた『あのリストから意図を持って削除された少年がいる』というのは、本当だった可能性が高い。
しかし、だとしたら尚更不思議だ。
橋爪社長はどうして、わざわざトモイを差し出してきたのか。
単にこの船に乗せ、ビジネスに役立つことを学ばせたかっただけなのか?
それとも、他に理由があるのか。
(橋爪社長の口ぶりでは、トモイの身を心から案じているようだったが……)
仮に、あのときの少年が生きていたとして、その少年がトモイだった場合、大きな懸念材料がある。
トモイと岩戸オサムの関係だ。
私が得た情報では、オサムはレイヤを捨て、トモイに乗り換えたばかりだという。
カイリ様がトモイを手元に置きたいという流れになった場合、オサムと揉めるのは勘弁してほしい。
私は事態の面倒くささに、ため息を吐いた。
とりあえず、地上にいるスタッフにオサムの弱点を探るよう指示を出しておこう。
トモイの監視役であるアラタが偶然にもオメガだったことだけが、唯一ラッキーだと言えるだろう。
—
従業員専用のレストランにルームサービスを頼み、自室の海が見えるテーブルへ、モーニングセットを給仕してもらう。
私がオメガだという可能性は、万に一つもないだろうが、今回は乗客1000名のみに対しての実験だから、関係者は皆、こうして従業員レストランで作られた食事を口にしている。
しかしそれも、この朝食まで。
昼からは、もっと色々なメニューを口にできるだろう。
(それにしても毎日毎日、雨ばかり。こうして海が見える椅子に座っていても、景色を楽しむ気にもならない)
私は、エビとトマトのオムレツを口に運びながらスマホを操作し、アラタにメッセージを送信した。
『私の部屋に来られますか?』
すぐにスマホが振動し、返信が届いたことを知らせる。
『今から行けます』
アラタはこういうやり取りを含め、機敏な対応が好ましい男だ。
10分後には部屋がノックされた。
「おはようございます。急に呼び出して申し訳ない」
食後の紅茶を飲みながら、彼にそう伝えると、笑顔で「ちょうど俺たちも食事が終わったところだったので」と答えてくれた。
カイリ様の嗅覚により彼がオメガだと分かっている今、そういう目で見るからか、薄っすら頬が赤いように感じる。
(私がアルファだったら、何か匂いも感じとれただろうに)
「トモイに何か異変はありませんか?アラタ、貴方自身にも変わったことは起きていませんか?」
「俺も?いや、二人とも特に変わりはありません。今日の午前は、短めの講義を3つ予約済みです」
「そうですか。正午にアッパーデッキに上がるメンバーが発表されます。トモイもアラタも、含まれていますので、そのつもりで」
「えっ、二人とも?……あぁ、トモイの監視を続行ということですね。了解です」
トモイだけが選ばれて、自分はオマケと誤解しているようだが、それならそれで構わない。
「話が早くて助かります。最後に1つだけ質問です。一昨日夜に水かけ騒動がありましたが、トモイはオサムを好いているのか、知っていますか?」
「好いているなんて言ったら、温厚なトモイでも怒ると思います。どうやら強引な手口でオサムに囲われそうになっているみたいで。船を降りるタイミングで彼の元へ行かなくてはならないらしいです」
ということは、まだオサムのものにはなっていないと思っていいだろう。
「そうですか。分かりました。あとはこちらで調べます」
「では、俺は部屋へ戻ります。トモイが待っているので。失礼します」
部屋を去ろうとするアラタの後ろ姿を、私は思わず引き止める。
「アラタ。アッパーデッキでは不測の事態が起きるかもしれません」
「不測の事態?トモイが水をかけられるような?」
「まぁ、そうですね……。他にも色々と。もし、アラタ自身の身に辛いことが起きたら、他の者を放ってでも、まずは一人で私のところへ来るように。いいですね」
怪訝な顔をするアラタに、私は念を押した。
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