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No.14:トモイ「分不相応なスイートルームへ」
【6月14日 12:00・メインラウンジ】
船に乗って四日目の今日は、午前中だけで3つの講義を受けた。
ここ三カ月、工場のトラブルへの対応ばかりで視野が狭くなっていた僕も、徐々に「勉強する」という感覚を取り戻しつつあり、楽しくなってきた。
「トモイ、アッパーデッキに上がれる選抜メンバーが貼りだされているみたいだから、見に行こうぜ」
アラタに引っ張られるように、掲示のあるメインラウンジへと移動してきたが、僕が選ばれるはずがない。
でも、アラタが選ばれている可能性はあると思い、彼に付き合った。
四桁の番号がプリントされた紙が、ホワイトボードに貼られていたが、全部で20名くらいだろうか?
思ったより少ない。
掲示の前では大勢の人々が、「残念」「うわ、全然ダメだ」「行ってみたかったな、アッパーデッキ」と落胆していた。
増々、自分には関係ないと思えたが、アラタに促され確認する。
「えーと、僕の番号は……えっ、うそ。ある。どうしよう、アラタ……」
(あのテスト、そんなに出来が良かったとは思えないのに、どうして僕が)
「よく見てみろよ。トモイと連番の俺の番号もある。だから二人で行けるぞ」
「あぁ、よかったー。一人だったら絶対に辞退してたよ」
「なにもったいないこと言ってるんだよ。アッパーデッキに上がれたら憧れのカイリ様と食事会とか、個別面談とかあるらしいぞ」
カイリと会話することが叶うならば、オサムとの関係に関する誤解を解きたい。
それから、あの事故のことを覚えているか、聞いてみたい。
「あのときは、助けてくださってありがとうございました」と伝えることだって、叶うかもしれない。
そう思うと、早くも緊張感が湧き上がってきた。
—
7110号室に戻ると、部屋の前でスタッフの方が待っていてくれた。
「お手数ですが、お荷物をまとめていただき、スイートルームへのご移動をお願いいたします。お部屋は一人部屋と二人部屋を選択できますが、どちらにいたしますか?」
「二人部屋で」
アラタが迷うことなくそう答えてくれ、僕はホッと安心する。
「では、こちらがアッパーデッキに上がることのできるエレベーターのカードキーとなります。支度ができましたら、キーを使って11階へお越しください。スタッフがお部屋までご案内いたします」
僕はペコリと頭を下げ、カードキーを受け取った。
「あの、午後から受講予定のセミナーは、どうしたらいいですか?」
アラタが問うと、スタッフは事務的な返事を寄越す。
「青山トモイ様、正田アラタ様、両名の受講予約は、こちらにてキャンセルさせていただきました。11階にて別のプログラムをご用意いたしますのでご了承ください」
僕らは荷物をスーツケースに詰め直し、7110号室を後にした。
—
「うわー、すげぇ。7階の部屋だって十分に快適だったけど「スイート」って付くと、こんな豪華なんだな」
アラタも僕も、はしゃいでしまうような部屋だった。
リビングルームとベッドルームが別々になっていて、窓も大きく、カーテンのデザイン一つとってもクオリティが高い。
僕なんかが、こんな部屋を使っていいのだろうかと、心配になる。
リビングのローテーブルには、ウェルカムスイーツとして4つのマカロンが置かれ、ポットには熱々のコーヒーが入っているようだ。
「折角だし、いただくか」
アラタがカップに注いでくれたコーヒーと、マカロンは確かに美味しかった。
しかし、やはり変な甘みの後味を感じてしまう。
しかも今までよりも、さらに強く……。
僕がマカロンを一つ残すと、アラタが「食べないならちょうだい」と食べてくれた。
彼は、味の異変など感じていないようだ。
僕はコーヒーも半分残してしまった。
(もしかして、オサムのところへ行かなければいけないストレスで、味覚がおかしくなっているのかもしれない)
……コンコン。
くつろいでいると部屋をノックする音がして、アラタが対応に出てくれる。
ドアの向こうにいたのは、ユウシだった。
「トモイくん、アラタくん。アッパーデッキへようこそ。改めまして、城井カイリの秘書、松木ユウシです。今日の予定をお伝えしに参りました」
「よ、よろしくお願いします」
「本日は、19時よりカイリ様主催の食事会を予定しております。11階にあるダイニングで開催しますので、そちらへお越しください」
「あ、あのドレスコードは?」
僕はやっぱりタキシードが必要だったのではないかと、不安になる。
「トモイ、ずっとそれ気にしてるな」
アラタは呆れたように笑う。
「だって、豪華客船だもん。タキシード着てるイメージあるでしょ?」
「今回のクルーズでは、11階にもドレスコードはございませんので、どうぞそのままの服装でお越しください」
「よかったぁ」
ユウシは綺麗に口角を上げ、上品に微笑んでくれる。
その後、苦手な食べ物やアレルギーの聞き取りもしてくれた。
食事会は、今までのようなビュッフェ形式ではないのだろう。
「他にご質問は?」
僕はふと思い出し、深く考えず疑問を口にする。
「ユウシさんは、全ての参加者の名前を覚えているんですか?」
「まさか。そんな能力は私には備わっていませんよ。どうしてそう思われました?」
「僕が水を掛けられたとき、僕の名前も、アラタの名前も知っていたから」
「あぁ。思わぬところで私の優秀さがバレてしまいましたね。普段は隠しているのですが。……本当は全ての参加者の名前が頭に入っているんです。能ある鷹は爪を隠すと申しますから、どうか御内密に」
何かを誤魔化されたのは分かったけれど、かわし方があまりにスマートで、それ以上は聞けなった。
ただ、ユウシが相当できる男なのだということは、伝わってきた。
(さすがカイリの秘書。僕も彼のように、強かな振舞いができる男になりたい!オサム相手でも、カイリ相手でも、自分の気持ちをしっかり伝えられるような男になりたい)
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