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No.15:オサム「カイリには渡さない」
【6月14日 15:00・岩戸コーポレーション】
『城井財閥のクルーズセミナーに参加している者がいたら、青山トモイを見つけ出し確保せよ』
この通達により、水原レイヤがくだんの豪華客船に乗船していたことが判明したのは、一昨日のことだ。
レイヤは子会社の営業だったが、たまたま社内で見かけ、見目の良さから社長付きの役職を与えた。
それなりに可愛がってやったが、あの男は知識が浅く会話がつまらない。
退屈に感じていたところにトモイが現れたから、元の営業へ戻したばかりだった。
『オサム様。必ずトモイを捕まえてみせます!』
そうメッセージが届き、『待て。勝手に動くな』と返信したが、そのまま連絡が途絶えた。
大方、何も考えずトモイに突撃して城井財閥の者に捕まり、スマホを没収された上で、監禁でもされているのだろう。
やはり考えの浅い男だったようだ。
ただ、レイヤが当てにならなくても、別筋から「異業種交流セミナークルーズ」に関する情報は集まってきた。
1000名の乗船希望者を募る広告は、大手経済誌に一度きり掲載されたらしい。
『20代、30代の男性に限る』という以外に特別な条件はない上、6泊7日とは思えぬ安価な料金設定で、かなりの応募があったという。
(どう考えても裏のありそうなクルーズに、よく参加するものだ)
収集した、噂話を含めた大小様々な情報の中で、一つ引っかかりを覚えた話があった。
俺はこういう勘が非常に鋭い男だ。
それは、サンデリアナ号のコック長が日本に来る前に寄った港で、ある稀少なハーブを大量に買い付けたというものだ。
秘書からその報告を受けたとき、俺は当然ながら問い返す。
「そのハーブの効能は?」
「はぁ。いまいち良く分からないのですが、大昔、公共マナーとして世界中の水道水にオメガ抑制剤が混入される以前、このハーブを摂取することで、オメガのヒートを誘発していたそうです」
「オメガ?」
「えぇ。私も気になり調べましたが、抑制剤入りの飲料を摂取している現代に於いては、何の意味をなさないとのことでした」
意味のないものを仕入れたとは思えない。
何らかの理由があるはずだ。
「他にオメガバースに関する噂話で、上がってきたことはないか?」
「オメガバースですか……」
秘書は「なぜそんなことを」と言いたげな表情でキーボードを叩く。
「オサム様が欲しい情報か不明ですが、今回のクルーズにセミナー講師として招かれた人間が100名ほどおります。この100名に一人もアルファが含まれていないということで、カイリは自分以外のアルファを嫌っているのではないか、と噂にはなったようです」
となると、あの船に乗っているアルファは、カイリのみということだ。
明らかに作為的なものを感じる。
「ジムにいる。しばらくは声をかけるな」
俺はそう秘書に告げ、社内にあるジムへ移動した。
—
ジャケットとシャツを脱ぎ、タンクトップ姿で、筋肉に重い負荷を掛けながら思考を巡らせた。
トレーニングマシーンのみが並ぶ無機質な室内は、考え事をするのに適している。
アルファである自分が、レイヤのような平凡な男に飽き飽きし、次に心を躍らせたのは、今やタブー視されている「オメガ」という存在だった。
それは同じアルファであるカイリにとっても、同様なのではないか。
トモイの微量な血液から漂った、ジャスミンの花のような匂い。
あの微かな匂いで、滾るように全身が熱くなったのは驚きだった。
抑制剤を抜いたトモイにヒートを起こさせ、むせ返るような香りの中、彼を抱いたらどれだけの興奮や快楽を得られるだろう。
想像しただけで、漲るものがある。
(オメガであるトモイは、本能のままアルファである俺を強く求め、もっともっとと縋りついてくるだろう)
カイリも同じような欲望を持ち、オメガを探そうとしてるとしたら……。
トモイが、俺より先にカイリのものになることを想像したら、頭に血がのぼっていく。
それは絶対に許せない、あってはならない事態だ。
俺はマシーンから手を放し、スマホで秘書へ電話を入れる。
「今すぐ屋上のヘリポートにヘリを手配しろ」
「ヘ、ヘリですか?」
「そうだ。海上にいるサンデリアナ号へ乗り込む」
秘書は、唖然としたように息を詰まらせたが、何を言っても無駄だと承知しているのだろう。
「畏まりました。すぐに手配いたします」と通話を切った。
俺は身なりを整え、最上階にあるCEO室へ戻る。
(トモイ、待っていろ。カイリの手に落ちる前に俺が攫ってやる)
部屋の中には秘書がいて、冷や汗をハンカチで拭きながら電話をしている。
「いえ、そこをなんとか。……困ります。腕のいいパイロットであれば、なんとかなるのでは?……。いや、はい。……えぇ、おっしゃっていることは分かりますが……」
「どうした?」
「あ、あのこの悪天候では、ヘリは飛ばないと……特に海上は無理だと言っております」
窓から外を見れば、確かに大粒の雨が大きなガラスに打ち付けていた。
思い通りにいかない苛立ちから、俺は椅子を蹴り上げる。
「ヒッ」
大きな音を立て、転がった椅子を見て、秘書が潰れたカエルのような声をあげた。
「天候が回復するのはいつだ?」
俺の怒りに満ちた声が電話の向こうにも聞こえていたのだろう。
「あ、明日ならなんとかなりそうだと、申しております……」
「明日は何があっても飛ばせと伝えろ」
秘書をそう怒鳴りつけ、俺は昂った気持ちを鎮めるため再びジムへ向かった。
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